春、一念発起 整理整頓を
毎日新聞 2014年03月18日 東京版
春は卒業や入学、転勤などで「引っ越し」をしたり、部屋の模様替えを考えたりする人の多いシーズンだ。
それと同時に、「どうしてもっと早く片づけなかったのだろう」「これじゃゴミ屋敷だ」と自宅の散らかり具合やモノの多さにあらためて気づき、落ち込む人もいるのではないか。
大量生産、大量購入の時代に、部屋の片づけやモノの始末に頭を悩ませる人は少なくない。
中には、足の踏み場もないくらいにモノが増え、積み重ねられた衣類や紙のすき間に身を潜めるように暮らしていて、「これじゃマズイ。もしかすると病気では」と診察室にやって来る人もいる。
この「大量のモノを片づけられない人」は最近、精神医療の分野で、「ホーディング(病的なため込み)症候群」と呼ばれ注目を集めている。
なぜそんなことになってしまうのか。その人たちはけた外れの怠け者なのかというと、そうではない。
もちろん「捨てるのはもったいない」と、モノを大切にする気持ちがまずある。
ただ、その“もったいない精神”だけではゴミ屋敷にはならない。
モノが増える過程では、日ごろのストレスを解消するためにはショッピングするしかない、という買い物依存症の傾向があることも確かだ。
そして、「ホーディング」の人たちは、増え始めたモノにも独特のこだわりを持つ。
一つ一つのモノへのこだわりが強すぎて、「全てのモノには意味がある」「このモノと私との関係は独特」と思うようになる。
そうなると、たとえTシャツ1枚、パンフレット1冊だけでも「自分の人生にとって欠かせないもの」となり、「捨てるなんて私の体の一部を失うのと同じ」となってしまうのだ。
「ホーディング」の人たちへの治療は、まず自分の家や部屋の状態を直視することから始める。もちろん、「あなたが掃除をサボるからだ」と責めることはしない。
そして、「捨ててはいけない」という思い込みの背景にある考え方の偏りを一つ一つ確認し、それを手放して気持ちをラクにすることで、モノの片づけにもつなげていく。
とはいえ、その道のりは平坦(へいたん)ではなく、いくら一時的に部屋がきれいになっても「ストレス解消は買い物だけ」という基本も何とかしなければ、すぐに逆戻りだ。
私も、整理整頓は得意ではないのであまり大きなことは言えないが、この春は一念発起して、モノのため込みから脱出してみようかな。
皆さんもいかがでしょう。