総合医ってなんですか?
2014年3月21日 読売新聞yomiDr.
(「十種競技」でよい成績を出せる万能な地域密着型の医師)
先日、市民講座を聴きに行ってきました。
東日本大震災を振り返って「これからは総合医師を必要とする時代」になるというテーマだったのですが、客席に参加者が少ないことに驚きました。
もしかしたら総合医を何か特別な専門医だと思われ、来る人が少なかったのでしょうか。
まさかそんなことはないだろうとも思うのですが、それにしても、パネリストが6人、大きなスクリーン4台に震災の医療支援状況が映し出され、それらの解説が入るという丁寧な進行で、場所も東北の大きな町だったのに不思議でした。
東日本大震災後に孤独死やコミュニティーの崩壊が起きたこと、被災住民の移住先で高齢者のケアがおろそかになっているなど理解しやすい内容なのですが、どの時点から総合医の時代の話になるのかと思って聴いていましたが、地域医療を見直そうというのがどうやら趣旨なのだと分かりました。
ところが、参加者のひとりが「結局、病院を定年退職した年取った専門医か、あるいは最初から専門医として成功しなかった人がやる医者のことですか?」と質問され「総合医時代」がやってくるという趣旨は全く伝わってないなと感じました。
医師が都心に集中している「偏在」問題と、総合病院や大学付属病院が混んでいる問題、紹介状がないと診てもらえない病院が増えているのにもかかわらず、慢性病の高齢者の方が多く、若い人は救急でも後回しにされることが多い問題などを解決するために、プライマリーケアとか家庭医、あるいは総合医といった呼び名で地域密着型の医師を増やそうという計画なのです。
呼び方も様々であることから、だれが総合医なのか診察を受ける側はよく分からないのです。
「近所に内科・胃腸科・皮膚科とか色々書いてあるクリニックがありますが、あれが総合医ですか?」という質問もありました。
回答は「それは専門医の集合クリニックです」なので、参加者の方々は首をかしげていらっしゃる。
これから大学に総合医という専門医をつくる医学部のカリキュラムを作成して、将来は地域に密着した医師を派遣し、そこでご高齢の方々を在宅医療で診ていく方向に変えていかないと日本の医療改革は進まないという趣旨でパネルディスカッションは進んでいったのですが、ある医師のパネリストは「オリンピックの十種競技でよい成績を出すような医師をつくらなきゃならないようなものだ。
ただの風邪だと思っていたら大変な疾患を見落としていたということでは総合医としての信用を得ることはできない。
そんな万能な医師をどうやって育成していくのか」とおっしゃるし、参加者の中には「総合医に診てもらって結局、大学病院に紹介されるのだったら、最初からネットで調べて名医に診てもらいたい」と反論される方もいる。
これはおおよその日本人の方のご意見を代表していると思います。
どこでも、いつでも、誰でも同じ金額で医師を選べるのですから。
ところが、ある方が面白いことをおっしゃいました。
「日本人ってなんでも専門家が好きなんですよね? なにかひとつできる人を尊敬する。
オリンピックに十種競技ってあるでしょ? あれ日本の代表選手なんていない。
でも欧州じゃ尊敬される選手らしいじゃないですか。
日本では放送してるのかどうかも私は知らない。
日本人はなんでもこの道一筋が好き。
そういう伝統があるんじゃないかな。
野球だって右か左かどっちかで投げろって言うし……。
医者も同じなんじゃないの?
スウェーデンのように税金がおそろしく高い国もあるけど、やりたいことがはっきりしているし、国民はそれで納得している。
日本では、国民が納得しないことを医者の都合や理想でやろうとしている。
だから話がまとまらない。
紹介状をどこかの開業医に書いてもらってから病院に来いとか…地元の医者がどういう理由で紹介状を書いているのかさっぱり分からない。
難病を診られないからなのか、最初から患者が病院に行きたいから書いているのか、一体、医者は何に困っているんですか? その辺をもっとオープンに教えてくれれば、わたしどもだって一歩理解が進むのに」
その通りなのです。
医師会の構造や、医師が地域に行きたがらないのはなぜか、毎年医学部を卒業している者がいるのに偏在とか医師不足とはどういうことなのか説明してません。
なぜかといえば、あまり言いたくない内容ばかりで、しかも解決方法にむけて医療関係者全員がひとつの方向を向いてないからです。
医師不足でよくいわれるのが、女性は医師になると辛(つら)い務めはいやがり楽な診療ばかりに回ってしまう、出産や子育てで医師を辞めてしまうが免許だけは一生もの。
低賃金や労働環境の悪い所にはいかない。
医師は男だけにしろなんていえないのは、「職業選択の自由」という原則があるから。
どう個人が職場を決めようが男女とも平等です。
在宅医療や、訪問看護、地域の総合医との連携で自宅で介護を受けながら最期をというのは理想論ですが、看護師の医療的権限はいまだに改善されていませんから、医師の判断をあおいでからでないと仕事ができない。
訪問医療をしている医師が録音した言葉を電子カルテに起こす仕事を、看護師の資格をもった人間がネットを使って、子育てをしながら在宅でもできるようにすれば、それだけ医師の時間が空いて、多くの患者を診ることができるという意見もありますが、テープ起こしをした内容を再度、医師が見直さなければならない時間を考えると、最初から医師が電子カルテに書きこむ移動システムを作ってしまった方が楽なのです。
在宅で家事をしながらノルマをこなすのはストレスフルなことです。
どんな仕事でも自宅でやるのは、気持ちがゆるみがちになる。
だから会社という建物に行く人が減らないのです。
参加者のひとりがこう言っていました。
「要するに国の金をあまり使わないで死んでくれってことでしょ? でもね、ひと昔と違って医学がすごく進歩したというような最先端医療の番組なんか見ると、オレもああいう手術をしてもらって以前のように元気になりたいなと思うのは人の心情ってものでしょう。
治るものなら前のように治りたいもの。
だから最初から一流といわれているその道のプロの先生に診てもらいたいと思う。
これはしょうがない気持ちでしょ?」
もうひとつ驚いた発言がありました。
「聖路加の日野原さんでしたっけ? 高齢の医師が講演で全国を飛び回るより、総合医の教育に回って指導者になってくれればいいじゃないですか」
最後にパネリストの医師のひとりがこう言いました。
「さまざまなご意見ありがたく、耳が痛い思いがします。
地域の連携と言ったとたんに協力したがらない医師がいることは確かです」と。
参加者は少なかったけれど、その分質問が多くて中身の濃いおもしろいイベントでした。
私も参加者のひとりとして、コミュニティーとは何かをしゃべってきました。
素晴らしいです。
あるのは接骨院と歯科医が目立つ程度。
大手病院や傘下病院が 患者の取り合いをしている始末。
有名専門医などがいる大学だからといって 必ず権威が主治医になるわけではなく、手術も研修医執刀が多くみられるようです。
病院に殺されるなど 本気で言われたこともあるのです。皇室や政治家が 東大病院ではなく順天堂病院などを選ぶのは なぜか・・。権威者がいる病院ほど組織が硬直化して 安心できないのでしょうね。