今日は、小だぬきの61歳スタート日
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いのちに優しく いまづ医師の漢方ブログ
春に必ず気が滅入る
2014年4月11日 読売新聞yomiDr.
近所の小学校の入学式で、駆け出す子供を嬉うれしそうに眺める両親の姿を見かけました。
ふと目を足元に向けると、小さな花がきれいに咲いています。
タンポポ、スミレなど、いろいろな色の花が心を和ませてくれます。
この季節、新しい出会いに、目を輝かせている人は多いと思います。
しかし、新しい環境で、精神的な負担を感じる人もいらっしゃいます。
期待と不安が精神的な重荷になっているわけです。
「友達100人、できるかなぁ」と、新しい出会いにワクワクして、プラスに考えられる人もいますが、中には、「どうやって友達を作ればいいのだろう」と、マイナスに考える人もいます。
◇ 「先生、これは病気でしょうか」
先日、外来にいらした方は、「毎年、春になると気分が滅入めいってしまいます。
わたしは春が苦手なんです」とおっしゃいました。
「手足の肌に、ぴりぴりとした電気が走ったような感覚になり、気持ちが落ち着きません」と、ご自身の腕をさすりながら話します。
冬から春に季節が変わる時期、さまざまな訴えをされる方が外来におとずれます。
気分が滅入る、おなかを壊しやすい、昼間の眠気など、身体の不調を訴える方々です。
今回のこの方を診察させていただくと、腹直筋が緊張してピンと張っていました。
「そんなに身構えなくてもいいですよ」と言いながら、診察を続けます。
今度は、みぞおちあたりに、軽い抵抗を手のひらに感じました。
「なるほど、なるほど」と、ひとり納得しながら、診察を終えました。
「あなたにとって、春は大きな負担になったのですね」。
わたしは説明を始めました。
土の中から草花が芽生え、冬眠から生き物が覚める季節、わたしは人の身体も大きく変わると考えています。
冬の間、縮こまっていたものが、春になって大きく伸びをするとき、身体の調子も大きく変わり、精神的にも肉体的にも、負担になると考えています。
三寒四温、この時期は気候も安定していません。
気圧の変化に身体がついていけないことも、原因の一つだと思います。
こんなときに、漢方医学では、「気き」の巡りが悪いと考えます。
目に見えない「気」というものが、うまく身体の中をめぐっていないために身体の不調が起きているという考え方です。
この場合、「気」を春の時期にあった状態にすることが大切です。
胃薬で?
わたしは、この方に人参湯(にんじんとう)をお出ししました。
この漢方薬は、胃薬として用いられるものです。
どうして、「気」の病に胃薬を使うのでしょうか。
それは、元気を取り戻すには、胃腸が丈夫で、食事をしっかりととらなくてはならないからです。
食欲が増し、体力がつくことで気力も充実し、「気」が身体の中をめぐり、春にあった身体にしてくれるわけです。
この方は、2週間後、元気な笑顔で診察室に入ってこられました。
「これまでひとりで悩んでいたのは、何だったのか。もっとはやく相談に来ればよかった」と笑いながらお話しになりました。
みなさんは、春をうまく迎えられているでしょうか。
体調がすぐれなかったり、気分的に落ち込んでいたりしませんか。
そんな時は、ひとりで悩まず、近くの医師に相談してみてください。
そして、春をうまく過ごす手立てをいっしょに考えましょう。
春をうまく過ごすことが、一年をうまく過ごすことにつながります。
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今津嘉宏(いまづ よしひろ)
芝大門いまづクリニック(東京都港区)院長
日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医・指導医、日本東洋医学会専門医・指導医