高齢者ねらう特殊詐欺
手口が次々変化
2014年04月20日 読売新聞「熊本」版
窮地に陥った親族を装ったり、架空のもうけ話を持ちかけたりして、大金をだまし取る特殊詐欺。
県内でも被害が増加している。
被害者の大半は高齢者で、「家族に打ち明けにくい」と泣き寝入りするケースも多いとみられる。
県警は今年度、詐欺グループからの押収名簿や県警OBを活用して、水際での被害防止に力を入れる。
■しつような電話
「次から次に電話がかかってきて、よく分からなくなってしまった。
詐欺だろうとは思ったけど……」
県内の70歳代女性は、沈痛な表情で振り返った。
3月中旬、大手インターネット会社の社員を名乗る男から自宅に電話がかかってきた。
「あなたの名前を使って(食品会社の)株を1000万円分購入したいのですが」
男は考える隙を与えないように、「あなたの名前が名簿に載っている。
載るのは選ばれた人だけ」「名前を削除するにもお金がかかる」と矢継ぎ早に持ちかけてきた。
身に覚えがないため電話を切ると、再び電話が鳴り、別の食品会社員を名乗る男が「あなたの口座に1000万円分の株を引き渡す。
まず100万円振り込んでほしい」。
多くの情報をもたらされた女性は混乱した。
インターネット会社員をかたる男から「株の売買を取り消されたら、大変な迷惑がかかる。後で返すので、100万円を引き出して」と再び電話があったときには、判断力が低下していた。 幸い、お金を引き出そうと訪れた郵便局の局員の機転で被害は免れたが、怖くて今も電話に出られない。
「もう人の言うことが信じられない」と、女性は涙を浮かべた。
■60歳以上が8割
警察庁のまとめでは、昨年の特殊詐欺の被害総額は全国で約486億9000万円と、統計を取り始めた2004年以降で最高額となった。
被害者の8割が60歳以上の高齢者で、特に70歳以上の女性が5割を占めている。
県警によると、県内の昨年の被害は75件、総額3億4260万円だった。
今年は3月末までに16件(前年同期比2件増)、約8200万円(同約4400万円増)となっている。
だます口実や送金手段など手口は変化を続けている。
1〜43の数字から六つを選び、最高で4億円が当たる数字選択式宝くじ「ロト6」。
当選番号は当日のインターネットで発表されるため、ネットで見た番号を電話で教え、翌日の新聞で確認させて相手を信じ込ませる。
次からはでたらめな数字を教え、情報料名目で金をだまし取る。
県内では約3500万円をだまし取られた人もいる。
特殊詐欺への警戒を強める金融機関を避け、現金を送ることが禁じられているレターパックやゆうパックを指定する手口も。
県内では昨年17件(同11件増)と急増している。
■撃退電話も導入
県警は今年度、県警OB2人を「特殊詐欺被害防止アドバイザー」として採用。
全国の警察が詐欺グループから押収した名簿の掲載者や過去の被害者の自宅を訪ねて防犯指導を行う。
さらに過去の被害者宅の電話機に録音機を取り付ける。
「振り込め詐欺撲滅電話です。
この通話は録音されます」とのガイダンスを流し、別の詐欺グループを“撃退”する。
今年度は100台の取り付けを予定している。
県警犯罪抑止対策室の福岡淳一室長補佐は「詐欺と思ったらまず誰かに相談して、警察に通報してほしい。早期の通報が被害防止と犯人逮捕につながる」と呼びかけている。
〈特殊詐欺〉
電話やメールなどを使って、面識のない人から金をだまし取る詐欺の総称。
親族などを装う「オレオレ詐欺」や「架空請求」といった「振り込め詐欺」のほか、架空のもうけ話で社債や株の購入を持ちかける「金融商品等取引詐欺」、ギャンブル必勝法名目の詐欺などがある。
◆相談と通報を
詐欺グループは巧妙な話術で人の心につけ込む。
取材した女性は「本当の話だったら誰かの迷惑になると心配で……」と声を震わせた。
こうした善意を利用した特殊詐欺は、決して許されない。
プライドがあってだまされたことを言えない人も多いが、被害撲滅のためにまずは通報してほしい。
詐欺グループの間では、高齢者の名簿が出回っており、いつ電話がかかってきても不思議ではない。
一人で抱え込むと判断力が鈍る。
おかしいと思ったらすぐに周囲に相談できる態勢が必要だ。
大久保和哉