「あきらめ」も必要
2014年6月4日 日刊ゲンダイ
奥田弘美(おくだ・ひろみ)精神科医
「怒り」は自分が正しいと信じている価値観と逆の価値観に触れた時に生まれます。
そして無意識に「自分の価値観に変えさせたい、従わせたい」と考え、イライラが増すのです。
しかし、人の価値観というものは一朝一夕で変わるものではありません。
その人が生きてきたうん十年という人生の中で、コンコンと形成された鍾乳洞の太〜い石柱のようなもの。
これを変えるには、石柱がボキッと折れるほどの大きな衝撃がないと無理なのです。
そこで、相手を変えようとすることをあきらめ、「相手はこのまま」という前提のもと、「では、どうしたらイライラせずに過ごせるのか?」と考えた方がうまくいくこともあります。
ある中間管理職のKさんは、新しい部長と合わないイライラから不眠症になりました。
Kさんは仕事を一通り完成するまで自分で仕上げたいタイプ。
一方、新部長は全て自分で逐一チェックしなければ気が済まないタイプでした。
Kさんは途中で経過を何度も報告させられ、細かい修正の指示もしょっちゅうです。
そのたびリズムが乱されるKさんはイライラがひどくなり、寝付けなくなってきたのです。
カウンセリングしていく中で、Kさんは次第に「部長を変えるのは無理だ」ということに気づきました。
すると、部長への非難ばかり話していたKさんが劇的に変わり、今まで考えもしなかったアイデアが次々とひらめき始めたのです。
まず、あらかじめ部長の直しに使う時間を計算した上でスケジュールを組む。
単純な直しは今まで頼んでいなかった部下に頼む。
同時に人事に異動願を提出し、密かに転職活動も始めたといいます。
「今後どうなるか未知数ですが、とりあえず今はイライラしないことに徹します」と話すKさんは晴れ晴れとした表情でした。
参考にしてみてください。
▽奥田弘美(おくだ・ひろみ)
精神科医。日本医師会認定産業医。
山口大学医学部卒。
都内20カ所の企業でビジネスパーソンの心身のケアを行いながら、「銀座スキンクリニック」ではコーチング・カウンセリングも行う。
著書多数。
5月16日には新著「女医が教える 働く男の怒りと疲れをパワーに変える処方箋」(メディカルトリビューン)を発売。