2014年06月05日

「アナ雪」に影響受け、ありのままに突き進む高齢者

石井苗子の健康術
「アナ雪」に影響受け、
ありのままに突き進む高齢者
2014年6月3日 読売新聞yomiDr.

(本当は「Let it go」は
「あきらめる」という意味なんですが…)

 いくら私でも、今、ディズニー映画「アナと雪の女王」の主題歌に人気が集まっているぐらい知っています。

「Let it go」は「もういいの、ありのまま」と訳されて、日本人の女優さんなどが歌ってヒットしていることを。

 先日、心療内科の患者さんが、この歌の「Let it go」の意味を誤解していることにはっとしました。

 その患者さんは、元競泳選手だったのですが、筋肉痛で泳げなくなり、周囲に水泳をやめろと言われ続け、主婦としてずっとがまんしていた。

でも、なんとかして昔の力を取り戻して、自由に泳ぎたいと心療内科に通われて7年目になります。

先週、ドクターが「そろそろ、ありのままで生きられてもよろしいお年なのでは?」とおっしゃるとすぐ、「Let it goですね、先生」とうれしそうにおっしゃるのです。

すかさずドクターが、「Let it goじゃ、あきらめろでしょ。
私はありのままで無理をしないでと申し上げているんです」とお答えになった。

すると「え? ありのままでしょ? だから水泳に没頭していいんですよね?」と彼女。

ドクターは「は?」となり、首をかしげる。
私が「今、はやっているディズニーアニメの主題歌『Let it go』です」と助け舟を出したのですが、さらにドクターは「アニメ? 全く知りません」と問題解決にならないお答え……。

 その患者さんは、ドクターの「ありのまま」を、「Let it go」の日本語詞の「ありのまま」と誤解していらっしゃいました。

確かに、私が知っている英語の「Let it go」も、「ありのままで」はなくて、ドクターと同じ「あきらめろ」です。

ありのままは、「be yourself」で、「let it go」ではありません。

 私が水産庁に勤務していたころ、腐敗した魚を漁船から海に捨てることを「レッコ」と言っていました。
Let it goは「レッコ」に聞えます。
腐っているなら「あきらめて捨てろ」という意味のレッコなのです。

 でも、あのアニメのレッコ「Let it go」は「もういいの、ありのまま」と訳されていますので、どちらかというと、過去をかなぐり捨て自由ですばらしい人生を手に入れるんだ!と言っているように聞こえます。

その言葉の通り、ディズニーの物語では、触れたものを凍らせてしまう秘密の力を持った女王エルサが、その能力のせいで南の国を氷の世界にしてしまったことを悩み、孤独に生きてきた過去を、この歌を歌いながら、「いっそ私は雪の女王になる!」と決心していく力強い歌です。

そこで「レリゴー、レリゴー」と繰り返し、主人公の気持ちを表現する英語のフレーズが、あまりにも感動的で、しかも覚えやすいので、映画館の観客が合唱をするぐらい人気があると聞いています。

 でも、若い人が爆発的に人生の何かを発見し、まい進することを決意するのと、高齢者が昔あったはずのパワーを取り戻すため、がむしゃらに再挑戦する決心との間には、かなりの開きがあります。
そこを誤解しないで、あの歌を聴いてほしいと思います。

 「Let it go」には、「居直る」という意味もあるのです。
ある種の危険性もおびている言葉です。

押し殺していた自分の感情を思いっきりほとばしり出させ、何もかもかなぐり捨ててと、「そろそろ、ありのままのご自分で」とは全く違います。

おそらく患者さんは、ドクターから「どうぞ居直って」と言われたと誤解されたのだと思います。

 「Let it go 」とばかりに熟年離婚をされる妻も増えているそうです。
がまんし続けていた夫から離れたいと思う気持ちを振りしぼる衝動でしょう。

たしかに「Let it go」には「離れろ!」という意味もありますから、間違った解釈ではありません。

エルサはLet it goの歌で、「正しいことも、間違ったことも、ルールもないわ。私は自由よ!」と胸を張って言い放ちます。

 歌自体は、すばらしい歌です。
歌は人に夢を与えるものですから、何も問題ありません。

でも、やりたいことを貫き通すばかりが、ありのままではないとも思っていただきたい。

立ち止まって考える必要もあるでしょう。
特に高齢者はそうしなければいけないと思います。

「Let it go」イコール「ありのまま」、「ありのまま」イコール「むき出しの感情のまま」と受け取るのは、間違った解釈です。

 がまんすることも「ありのまま」の自分を受け入れる生き方も、大切な健康法だと私は思います。
posted by 小だぬき at 00:00 | Comment(3) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本語通訳、英語通訳、フランス、イタリア
みんな通訳が違うから面白いわ
みんな勝手に、中身を変えてるもの(≧m≦)ぷっ!
Posted by みゆきん at 2014年06月05日 17:04
goはこちらから離れる。離すって感じでしょうか?
「あきらめる」は「あきらかにする」今の自分をまさに「ありのまま」によく見て判断する(この体力じゃ無理だろうなとか)ということですよね。
「ありのまま」は「自分の”思い”通りに」ではなく、自分のあるがままに合わせて、ということでしょうね。
言葉は正確に使わないと誤解をうみますね。
言葉はむずかしいです。
Posted by まる at 2014年06月05日 18:33
私は 素敵な意訳ならいいと思っていましたが、弊害・勘違いが起こるようでは困ったものですね。
Posted by 小だぬき at 2014年06月05日 18:35
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