香山リカのココロの万華鏡:
もう少しラクになれば
毎日新聞 2014年06月24日 首都圏版
私たちはみな、いろいろな「こだわり」を持って生きている。
「開放的な屋外で食事をするのは気持ちいい」という人もいれば、「外で食べるなんて不潔できらい」という人もいるだろう。
その「こだわり」が過剰になり、生活や仕事に支障がきたされるほどになった場合、それは「強迫性障害」と呼ばれる。
強迫性障害は、うつ病などと並んでよくある心の病のひとつだ。
その中でもとくに多いのは、自分やまわりが細菌などで汚れているのではと気になり、何度も手洗いや洗濯をしてしまう「洗浄」と、戸締まりやガスの元栓などを繰り返し確かめる「確認」だ。
ほかにも「歩き出すときは右足から」といった自分で作ったルールにこだわったり、特定の数字を何としても避けたりする人もいる。
強迫性障害の場合、単に「こだわりが強い」「ジンクスを大切にする」といった程度を大きく超えており、本人も「そこまでやらなくてよいのに。でもやらずにはいられない」と苦痛を感じている場合が多い。
いまのところ、この強迫性障害は性格やストレスだけが原因ではなく、いわゆる脳内ホルモンの調節障害がかかわっていると考えられている。
そのため、治療にはその障害を改善する薬を使うことが多いが、段階を踏みながら問題となる行動をコントロールする認知行動療法も効果的といわれている。
この強迫性障害はしばしば子どもにも起きる。
子どもの場合、「寝る前に100回おじぎをする」といったこだわり行動の背景には、「それをしないと家族に悪いことが起きるから」など「家族を守るため」という理由があることも多い。おとなが「そんなバカな」と思うことでも、子どもは疑うことなく信じてしまいがちなのだ。
家族は「そんなこと、やめなさい」「意味がないでしょう」としからずに、「みんなのためにやってくれているんだね」などと受け入れ、「でも途中でやめても大丈夫だよ。さあ、ごはんにしよう」ともっと楽しいことに誘ってあげるくらいの“何気なさ”が大切だ。
見ている家族のほうがイライラして、いても立ってもいられなくなっては、ますます行動はエスカレートしてしまう。
おとなの場合でも、強迫性障害の人たちは一般にまじめで努力家、仕事などの面では信頼できる実力派が多い。
「このこだわりは個性。でももう少しラクになればもっと人生、楽しめるはず」くらいにどっしりかまえて、自分を認めてあげてほしい。(精神科医)