香山リカのココロの万華鏡:
大人を「信じる?」「疑う?」
毎日新聞 2014年09月30日 首都圏版
神戸で女児が行方不明になっていた事件は、遺体で発見されるという悲しい結末を迎えた。
容疑者として逮捕されたのは、近隣に住む47歳の男性だった。
この事件を受けて、テレビのニュースではキャスターが「子どもに防犯意識を持たせることが大切です」と言っていた。
おそらく全国の家庭でも、親が子どもに「知らない人に声をかけられても道をきかれても、絶対に返事をしてはいけない」と教えているのではないだろうか。
いまからもう40年以上前になるが、私が通っていた北海道の小学校の朝礼で、校長先生がこう話したことがあった。
「この町にもたくさんの観光客が訪れるようになりました。
中には道に迷う方もいるでしょう。
もしそういう人に道を尋ねられたら、親切に教えて案内してあげましょう」。
私は空想好きの子どもだったので、「あこがれのプロ野球選手がふらりと旅行にやって来て道に迷い、私がその人を目的地まで連れて行ってあげたとしたら……」などと考えて、楽しい気持ちになったことをよく覚えている。
実際には旅行者に道を尋ねられることはなかったが、時には「誰か迷っている人はいないかな」と駅前でまわりをキョロキョロしていたこともあった。
いま思えば、驚くほどのん気な時代だった。
ただ、これは何も私の小学校や地域に限ったことではないだろう。
少し前までは全国の学校で「あいさつされたら元気に返事」「知らない人には親切に」と教えていたに違いない。
それが今では「あいさつに返事なんて絶対ダメ」「知らない人には要注意」などと正反対のことを教えるようになったわけだ。
そうしなければ実際に事件や犯罪に巻き込まれるのだから仕方ないとはいえ、幼いうちから「世の中には悪い人がいっぱい」「他人は信じるな」と警戒心を植えつけられて育つのは、子どもたちの心にとって良いこととは思えない。
また、大人にとっても、道行く元気な子どもたちに「おはよう、いい朝だね」と声をかけたくなっても、「怖がられるかも」と遠慮しなければならないのは寂しいことだ。
悪い人はほんのわずか。
ほとんどはやさしくて親切な人ばかり。
だから、あなたも人や世の中を信用して、思いやりを持って生活しよう。
こんな簡単なことも、子どもたちに伝えるのがむずかしくなっている。
「大人を信じて」と言うべきか、
「大人を疑って」と言うべきか。
あなたの家庭はどちらを選んでいるだろう。(精神科医)
本当はやさしい人の方が多いのにね。
以前、休みのたびに一人旅していた時、ローカル駅にあった派出所や煙草屋がなくなり コンビニばかりが目立ち 店員さんも地元でなく 困ったことも度々でした。片っ端から 歩いている人に聞きながら観光をしたことがあります。
もしその町で 事件でもあれば 不審者になってしまうのかな・・・。自粛も行き過ぎると 温かい交流が減ってしまいますね。