筆洗
2014年10月21日 東京新聞
江戸の町火消しで、主力となったのは鳶(とび)の者たちだった。
本来は建築業の鳶が火消しの担い手となったのは、その時代の消火方法と関係がある
▼当時は消火よりも延焼を防ぐため火元周辺の家屋を倒す「破壊消火」が中心。
一刻も早く壊すため、家の構造を熟知した鳶の知恵と技術が必要になった
▼現場に駆けつけた火消しの頭は風の強さや方向を見て、どの辺りまでの家を壊していくかを判断し、指示を出す。
乱暴に聞こえるかもしれないが、当時はこれが最も効果的な消火方法だった
▼同じ日に二人の閣僚がお辞めになった。
前代未聞の大失態である。
「黒い芝居見物」の小渕さんの方は辞任の見通しが濃厚になっていたが、
「黒い団扇(うちわ)」の松島さんの同時辞任には驚いた
▼二人の他にも、野党が「不始末」を追及する閣僚がいる。
辞任ドミノがささやかれる中、これ以上の「延焼」を防ぐため、松島さんの「家」も早めに破壊した。そんなところだろう
▼それでも、この火事は当分消えまい。世間はアベノミクスの「夢」から目が覚めつつあり、支持率も下がってきた。
火の手は広がりやすい。
そもそも「火元」は小渕さんではない。
うっかり火を出したのは二人を選んだ首相である。
消火どころか、半鐘の音は火元の遠い「じゃーん、じゃーん、じゃーん」から危険の迫る「擦り半」の「じゃじゃじゃじゃじゃ」に変わった。

