過干渉で心身不調も…
「毒母」への悩み 語り合う娘
2014年10月16日 読売新聞yomiDr.
母親の過干渉に苦しんできた娘が続々と声を上げている。
進路やパートナー選びにまで過剰に口を出し、娘を精神的に追い込む母は「毒母どくはは」とも呼ばれる。
顕在化してきた母娘関係の闇。その背景は――。
9月下旬、東京都内で開かれたトークイベント毒母ミーティング。
会場は満員の聴衆で埋まった。
ともに母との関係に悩んできたミュージシャンの小川雅代さん(45)と漫画家の田房永子たぶさえいこさん(35)が2年前に始めた。
7回目のこの日は、田房さんの新作「うちの母ってヘンですか?」(秋田書店)の発刊記念。作品は、「毒母」について体験談を寄せた読者13人について描いたもので、このうち3人がトークに加わった。
「母の知らないところで漫画に描かれ、ささやかな抵抗をした気持ち」「母を客観視できた」――など、同じ悩みを持つ者同士、日ごろは言いにくいことも語り合う。
会場は、笑いや共感の声であふれた。
小川さんは、母で女優の真由美さんとの関係に苦しんだ日々を著書「ポイズン・ママ」(文芸春秋)につづった。
「イベントはいつも満席。遠くから訪ねて来る人や、泣きながらメモを取る人もいる。おもしろ半分ではなく、参加者の思いは切実です」と小川さん。
ここ数年、過干渉の母親と娘の関係性が注目されている。
著名人の告白本も発刊され、テレビや女性誌で話題のテーマだ。
「毒母」は、娘の生活の細部まで口を挟み、友人関係にも立ち入って娘の世界を支配しようとする。
「娘のため」と思い込んでいるが、娘にとってはまるで自由を奪う独裁者。
娘が心に不調を来たし、うつ病やパニック障害になるケースもある。
イベント参加者の多くは、母娘関係に悩む当事者。
「独立したくても『ママがいないと何もできないくせに』と言われる」という29歳の娘や、「自分の子に私と母の関係をどう説明したらいいか」と悩む子育て中の娘もいた。
2年前に発刊した「母がしんどい」(KADOKAWA中経出版)で自らの母との関係を描いた田房さんは「娘の方は、本当は苦しんでいても母を悪く言うことに罪悪感があるので、だれにも相談できず悩んでしまう。
でも、人権侵害や虐待のレベルになる場合もあり、根深い問題。
仲間が集まる場を作り、気楽に語り合うことは救いになる」と語る。
なぜ、わが子をそこまで追いつめてしまうのか。
「実は、最大の毒は父親かもしれない。父親が妻に家庭を任せきりにし、家族から逃げてきた結果、家族の中で母親が女帝化してしまったのではないか」。
臨床心理士として、きしむ母娘関係を見つめてきた原宿カウンセリングセンター所長の信田のぶたさよ子さんは指摘する。
戦後、日本の家族には「外で働く父と家庭を守る母」という役割分担ができあがり、核家族の中で子育て負担は母親に集中した。
「毒母」問題は、その副産物なのか。信田さんは「『毒母』の問題は女性だけでなく、男性の問題でもある」と話す。
“女同士のバトル”と矮小わいしょう化してはいられない、一つの社会問題といえそうだ。(高梨ゆき子)
毒母ミーティング
同時期に「毒母」本を発刊した小川さんと田房さんが2012年6月から、東京都杉並区の阿佐ヶ谷ロフトAで開いているトークイベント。
母娘関係の悩みを語り合う。
開催は不定期で、田房さんのブログ(http://mudani.seesaa.net/)などで告知される。