記者の目
PTA改革のススメ=山本浩資(東京社会部)
毎日新聞 2015年03月25日 東京朝刊
◇義務感排し自発的に
東京都の大田区立嶺町小学校(児童数約730人)では、PTAをPTOと呼ぶ。
「Parent(親)Teacher(先生)」までは同じだが、「Association」(協会)ではなく、「Organization」(団体)の略語を使う。
嫌々やるイメージの「A(えー)」ではなく、楽しむ学校応援団の「O(おー)」の意味もある。
権威的な印象の「役員会」は「ボランティアセンター(ボラセン)」に、
「会長」は「団長」と名称を変えた。
義務的なPTAの概念は捨てることができる。
私がPTO団長として3年間、仲間と一緒に進めた組織のイノベーションを紹介したい。
◇「もしドラ」参考、まずは意見収集
新学期を控え、運営に頭を悩ませているPTAは多い。
いくつか他校のPTAから相談を受けたが、悩みは同じ。
「役員や委員のなり手がいない」
「前例踏襲の活動が続いている」
「改革するにはどうすればいいか?」。
何かを変えようとするとき、リーダーは孤独だ。
私も最初そうだった。
改革の旗を揚げても、変えることへの抵抗や、失敗したときの責任を気にする人がいて、はじめの一歩が踏み出せない。
「心の壁」を取り払い、理念を共有する仲間集めこそが、改革を進める大切なポイントとなる。
私は、人気小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著)を参考に、「もしドラPTA」と題して、ドラッカーの言葉を使って改革の必要性や背景を説明した。
「会員のマーケティング調査が必要」と、アンケートを数回実施。
就任半年後のアンケート(回収率96%)には、「悲痛な叫び」が寄せられた。
「お金を払うからやめさせてほしい」は、会社を休み1点1円のベルマーク集計を行った母の声。
また、子供が在籍する6年間に1回は全員が役職につくルールがあり、別の育休中の母は「乳児を背負って資源回収に参加した」。
かつてPTA活動の担い手は、専業主婦や自営業の人が中心だった。
共働き世帯が増え、前出のアンケート(大半は母親が回答)結果では、フルタイム勤務、パート勤務、専業主婦の割合が3分の1ずつで同じ。
なり手が減った結果、活動継続のため全員参加の強制力は強まっていた。
「ボランティアをしたことがある人はいますか?」 学校で開いた「もしドラPTA」説明会で尋ねると、手を挙げたのは参加者80人のうち10人。
「PTA委員を経験したことがある人」は、ほぼ全員が手を挙げた。
「PTAはボランティア」と一般的に言われているものの、ボランティアだと思って参加した人は、ほとんどいなかった。
PTAは任意加入のボランティア団体だ。
文部科学省によると、PTAの設置を義務づける法律はなく、社会教育法による社会教育関係団体に位置づけられる。
ボーイスカウトなどと同じで、本来は参加するかしないかを自由に決められる団体だが、「PTA参加は全ての保護者に課せられた平等の義務」と理解されるケースが多い。
◇前例とらわれず、支え合って行動
世間一般のPTAに対するマイナスイメージの原因は、「平等の義務」の概念から派生する「3本の『や』」にある。
「やらないといけない=義務感」
「やらされている=強制感」
「やらない人がいる=不公平感」。
「3本の『や』がなくなれば、PTAはハッピーになる」。
そう説くと、共感する保護者の輪が広がった。
校長をはじめ、学校側の理解も大きかった。
「平等の義務」を廃し、前例踏襲の活動をすべて見直した。
六つあった委員会はすべて解体。
昨年4月、完全ボランティア制のPTOに変え、必要な活動ごとに参加者を募った。
運営側と参加者側の負担を軽減するため、「嶺小PTO」ホームページを開設し、ネット上で双方向の情報伝達を可能にした。
あくまでも自発的な活動で、義務でも強制でもない。
個人の自由な意思で考え、発想し、行動する。
自由参加のボランティアと定義づけたことで保護者の参加意識が変わり、アイデアしだいで活動に人が集まるようになった。
父親の参加も増えた。
お祭り、防災訓練、パトロールなど、PTOになった1年間の参加ボランティアは延べ450人。
運営で苦労する時もあるが、従来のPTAの概念を捨てたことで、前例にとらわれず互いに支え合って行動する環境ができた。
「役員」改め「ボラセンスタッフ」には、活動のコーディネーター(つなぎ役)の意識が芽生えた。
自ら行動する大人を見て、子供は「ボランティアとは何か」を学ぶ機会にもなる。
こうしたボランティアの輪は、地域社会の中で役立つ時がきっとある。