香山リカのココロの万華鏡:
科学の目と人間の目
毎日新聞 2015年04月21日 首都圏版
往年の名作「白い巨塔」に始まり、病院や医療の世界を舞台にしたテレビドラマは常に人気だそうで、この春もいくつかスタートした。
もちろん娯楽作品とわかって見ているのだが、ちょっと気になる点がある。
それは、必ず「良くない医者」が出てくるが、その特徴がいつも同じということだ。
患者さんの話を聞かずに短時間診療で終わらせる、診察よりも検査データを重要視する、すぐに薬を出したり手術をしようとしたりする……。
じっくり時間をかけて“手当て”をする「医は仁術」的な医者の対極にあるイメージだ。
たしかに、患者さんのことより自分の名誉や利益だけを重んじるのは、医療関係者として許せる態度ではない。
しかし、「検査や薬よりとにかく対話」というのはどうかな、とときどき首をひねってしまう。
私は研修医や若手の時代、何度か検査の不徹底で患者さんのからだの病気を見逃しそうになり、指導医からしかられた。
たとえば甲状腺から出るホルモンの異常でうつ病そっくりの症状が出ることがあるのだが、診察時間のすべてを対話だけにあてて血液検査を忘れたことがあったのだ。
また、心臓に異常がないのに動悸(どうき)が続く患者さんに生活改善の指導などを続けたがうまくいかず、軽い安定剤を処方したらすぐにおさまったことがあった。
そのときに患者さんが口にした言葉が忘れられない。
「最初からこの薬を出してくれたらよかったのに。
時間を損しちゃった」
もちろん、診察に十分な時間もかけず、データだけですべてを判断したり何でも薬ですませようとしたりする医者が患者さんから信頼されないのは、あたりまえのことだ。
とはいえ「検査データに頼るのは悪い医者」というのも違う。
結局、大切なのは「科学的検査、治療と人間的な医療とのバランス」ということになるのだろう。
現在の医療制度では外来で患者さんひとりにかけられる時間は、どうしても限られてくる。
私の勤務する診療所では原則として「初診20分、再診10分」。
この時間内にバランス良く、科学の目と人間の目で患者さんを診てもっとも適切な治療の手段を選んでいくのはかなりむずかしい。
テレビドラマに出てくる「良い医者」は、ひとりに何十分も時間をかけ、とことん患者さんの話に耳を傾ける。
なるほど、患者さんが望んでいるのはこれだな、と思いながら心のどこかで「でも現実的には不可能だな」とため息をついているのである。
(精神科医)


女性ホルモンはもっと大事(*^m^*) ムフッ