憂楽帳:重みの伝え方
毎日新聞 2015年04月30日 大阪夕刊
70歳を過ぎた母親が、膨らんだ小銭入れを手にしながらぼやいた。
「あれ以降、すごい増えたんよ」。
家計への影響も含め、昨年4月の消費増税を恨めしそうに振り返る。
彼女は徹底した「現金派」。
利用額に応じたポイントなどの特典をはじめ、クレジットカードの利便性を説いても「どうも苦手で」と笑う。
戦中生まれ。
お金のやりとりは、手と手を介してこそ安心なのはもっともかもしれない。
翻って我が身。カードと電子マネーを数種類ずつ使い分け、現金を持ち歩く機会は減るばかり。
世の風潮も同様らしく、5%から8%への税率引き上げに備え、昨年4年ぶりに製造が再開された1円玉の流通量は増えなかった。
保育園児の我が子も、スーパーではレジで「ピッ」と電子マネーをかざすことが楽しみの一つ。
だが自分の記憶をひもとけば、駄菓子屋で小遣いを握りしめ、品定めする中で金銭感覚を身につけた気がする。
「1円を笑う者は1円に泣く」。
かつては日常で実感できた格言の重みをいかに伝えるか。
便利さの裏には、やはり悩みもある。
【野村和史】

