イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常
生活保護制度、廃止すべきか?
2015年5月8日 読売新聞
原稿を書いている今日は憲法記念日の5月3日、日曜日です。
通常原稿の締め切りは火曜日ですが、ゴールデンウィーク中で、かつ今日が憲法記念日なので、憲法に対する思いを交えて書き下ろします。
1945年に日本が無条件降伏しました。
その翌年の46年11月3日に日本国憲法が公布され、6か月後の47年5月3日に施行されました。
日本国憲法の中で僕が大好きな条文は99条です。
そこには、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」とあります。
この文言の中に、国民が入っていないことが、僕がこの条文を愛する理由です。
つまり、憲法を守る義務は国民にはありません。それを堂々と憲法が宣言しています。
憲法は国家権力を制限するためにあるのだと僕は信じています。
一方で、法律は国民を制限するものです。
いろいろな人が暮らしていく以上、ある程度の制限は当然必要になります。
だから国民は法律を順守する必要があります。
それで秩序が成り立っています。
だからこそ、憲法は法律の上にあるので、最高法規と位置づけられていると思っています。
憲法の改正には賛成です。
必要があればその時代に即して改めていくことは当然と思っています。
しかし、その議論の根底にアメリカから押しつけられたものだから改憲すべきだという理論には賛成できません。
アメリカから与えられた憲法でも、問題がなければそれでいいのです。
現憲法に問題があれば、憲法96条に従って改憲すればいいと思っています。
少々英語が苦手でもぜひ、日本国憲法の英語の原文を見て、そして読んでみてください。
結構面白いですよ。
HPの検索で「日本国憲法 英語」とでも入力するといつくかのサイトがすぐに見つかります。
96条には「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で…」とあります。
過半数ではないですね。
それも出席議員ではなく総議員です。
つまり、政権与党以外の賛成もないと通常は改正できない仕組みです。
僕はこれでいいと思っています。
医療と法律…
違反しなければ問題ない?
さて、医療についてです。
日本は民主主義の国ですから、法律に違反しなければ何でもOKなのでしょうか。
実はそんなことはないですね。
医療を規制する法律も、当然憲法に束縛されます。
また、医療者の倫理が当然の如く存在します。
詐欺まがいの高額な自費診療を行っている医師が「法を犯していないから問題ない」と言い放っている光景や、患者に危険性を説明してあるから自分の手術で何人が死亡しても法律的には問題ないという医師の存在は、なんだかちょっと間違っているように思えます。
不正受給?相次いでいるが…
一方で、病院やクリニックの外来には生活保護の人々もたくさん来院します。
生活保護の人の医療費は無料です。
「みんなのお金」から出しているのです。
そんな生活保護の人々が200万人を超えています。
これだけの人が生活保護を受けていると、その中には不埒な人もいます。
僕の外来にも、生活保護受給者なのに超高級腕時計をしている人、生活保護受給者なのに働いて結構な収入のある人、医療費が無料だからとたくさんの薬を欲しがる人、全く働く気がない人など、不埒な人を数え上げれば切りがありません。
そんな不埒な人の情報も個人情報ですから、僕から氏名が他に漏れることはありません。
そんな人々に無料で医療を提供していると、若い先生だけでなく、経験を積んだ医師でも、「とんでもない。こんな制度は廃止した方がいい」という感情を持ちます。
昔からよく耳にする言葉で、僕自身も時々そう思うこともあります。
そんな光景を全国民に発信して、国民の過半数が賛成しても実は生活保護の制度を廃止することはできません。
憲法25条で生存権は保障されているからです。
憲法を変えないと生活保護の廃止もできません。
ではいっそ憲法を改正しようといった流れにもなります。
安心して生きていくために
生活保護を受けて不埒なことをする人々は後を絶ちませんが、でもそれは200万人を超える全体からみれば、ほんの一握りです。
多くの生活保護受給者は精いっぱい、人に迷惑を掛けないように生きています。
そしてそう願いたいですね。
過半数の意思決定では、その時々の勢いで変わってしまいます。
憲法はそうあってはいけないと思っています。
憲法改正は通常よりも高いハードルでいいと思っています。
しかし、「みんなのお金」を使っている生活保護がもっと上手うまく機能するように努力する必要は当然にあります。
今は健康で、何ひとつ不自由がない人も、突然に病気や怪我けがで「みんなのお金」が必要になることがあるのです。
相互扶助は安心して生きていくための大切なシステムだと思っています。
人それぞれが、少しでも幸せになれますように。
◆ 新見正則(にいみ まさのり)
帝京大医学部准教授

