教育機会の保障 多様化の利点を生かせ
毎日新聞「社説」 2015年05月31日 02時35分
義務教育でも、学びの多様なかたちや学び直しの機会は、広く保障されるべきだ。
超党派の国会議員が立法準備を進めている「多様な教育機会確保法」(仮称)案は、そうした考えに立っている。
学校教育法の学校に該当しないフリースクールなど、不登校の子供らが選択した学びの場を制度的に認め、支援も行うという。
不登校の小中学生らが通うフリースクールは全国に約400、学ぶ子供は約2000人ともいわれるが、文部科学省もまだ把握しきれていない。
一方、2013年度の不登校小中学生は約12万人に達している。
公的支援がないため、フリースクールに通うにも学費などの経済的負担は小さくない。
また、夜間中学に多い、学齢期を超過したが学び直したいという人たちへの機会保障も課題だ。
この議員立法は基本的な理念と国の責務などを骨格にし、成立すれば、文科省が具体的な制度設計をした後、学校教育法改正を経て、17年度施行を目指している。
実現すれば、学習指導要領を軸に固定された「単線型」の義務教育制が、多様な「複線型」に幅を広げるともいえ、大きな転換だ。
案では、フリースクールや自宅など、学校外での学びを選ぶ場合、保護者は子供との話し合いやスクールなどの助言を踏まえ「個別学習計画」を作成、市町村教育委員会に申請する。
教委が認めて計画が実行されれば、修了とみなす想定だ。
また教委の指導やスクールソーシャルワーカーらの訪問などで学習の質を保証し、財政支援も図る。
だが、懸念もぬぐえない。
教委の関与が条件を狭めたり、一定の型にはめたりするおそれはないか。
審査や認定はどんな手法で行うのか。
フリースクールなどには定型化されない多様性や個性を特徴とする面もあり、メリットでもあろう。
それらの難しい課題をどういう仕組みで解決していくか。
学校教育改革の弾みにしていくためにも、細心の設計が必要だ。
かつて例外的な問題とみなされがちだった不登校は、1990年代には「どの子にも起こりうる」と認識を改められた。
その選択する学びの場やかたちが制度的にも「例外」ではないとされれば、教育機会の保障だけではなく、学校教育を豊かにする効果も期待できよう。
また忘れてはならないのは、深刻な貧困率や境遇の格差、虐待、放置などといった問題で就学の機会を奪われた子供たちだ。
今回の改革をそうした実態にも扉を開き、改善へつながる手立ての一つともしたい。