火論:46年前の通知=玉木研二
毎日新聞 2015年07月07日 東京朝刊
「高校に乱れが及んでいるが、文相は各都道府県教育委員会にどのような指導をしているのか。
もし適当な措置がされていないならば、早くとってほしい」
1969年10月31日午前の閣議。
佐藤栄作首相が当時の坂田道太文相にこう指示したと、毎日新聞夕刊の1面は伝えている。
「乱れが及ぶ」とは、大学紛争が高校に広がり、生徒たちが街頭の政治デモ、集会にも盛んに参加していることを指す。
この10日前は「10・21国際反戦デー」で、東京・新宿などで激しいデモと機動隊の衝突が繰り広げられ、高校生たちも検挙された。
生徒たちの「政治的活動」を封じる文部省(現文部科学省)の指導通知は、すでに準備されていた。
31日のうちに初等中等教育局長名で教委に送られている。
いわく、クラブや生徒会の政治的活動利用の禁止。
放課後や休日も校内の文書配布や集会は規制、禁止する。
校外でも好ましくないと指導。
教師も個人的主張を避けよ。
この通知は今も生きていて「18歳選挙権」で再び注目されている。
46年前は「参政権がない」を政治的活動禁止の根拠の一つにした。
それはもはや通じない。
文科省は通知を見直すといい、自民党は教師「中立」のため新たな規制案も提起するが、制約は緩いほどいい。
心配なのは「政治的」なるものに過敏になって、今後の主権者教育の授業で、熱い政治テーマを避けようとする傾きが生じることだ。
もし政治に、目も耳も口も覆うのが無難とでもいうような「空気」を高校生が感じたら、元も子もない。
大いに語るべし。
小さな工夫が生きる。
文部省が通知を出した69年秋。ピリピリする中で、毎日新聞は「高校生」という連載をしている。
授業は実社会とつながっているのか。
疑念はいつの時代もあるが、とりわけあのころ、教師たちは問われた。
記事によると、兵庫県のある学校では、教師が英字新聞の社説を副教材にした。
建前は記事文体の学習だが、内容は沖縄だった。
返還交渉のヤマ場。
このころのデモが真っ先に掲げた政治問題だ。
教室の空気が変わり、役に立たぬと英語に関心の薄かった生徒も真剣に読んだ。
「授業と社会の動きが無縁でないことがわかってうれしかった」
「学校で沖縄のことを口にするなどタブーだと思っていた」
またこんな授業をやってほしいという希望が寄せられたという。
(専門編集委員)
修学旅行の喫煙事件も 何を先生方が勘違いしたのか、何かの意図があると深読みし 「窓を開けたのなら灰皿の吸い殻も始末しておけよ」と 助言を頂き 処分なし。あの時代の雰囲気を思い出すと懐かしい限りです。