2015年12月03日

私の人生 これでよし 

香山リカのココロの万華鏡:
私の人生 これでよし
毎日新聞 2015年12月01日 首都圏版

 ラジオの特別番組のゲストに出た。
テーマは「私の気持ちを代弁してくれる歌」。
生放送中にリクエストを募るのだが、パーソナリティーも3人のゲストも女性だからか、幅広い世代の女性リスナーからたくさんのメール、ファクスが来た。

 どの人も、曲名だけでなく、いつ、どんな状況で好きだったかを書いてくれる。
「長年連れ添った夫を亡くしたとき、どれほど励まされたか」
「引きこもりぎみの息子にそっとCDを渡しました」といった感動的な話から
「好きだった人と再会したときはお互い既婚者。
いまは友だちとして連絡している私の気持ちを曲に託します」など、思わず「大丈夫か」とドキドキしてしまう話まであった。

 それにしても、つくづく「オンナの人生、いろいろなことがある」と思う。
結婚から出産、育児と立場が目まぐるしく変わり、ときには夫の転勤などでいきなり外国に住んだり突然介護の問題が迫ってきたりすることもある。

子どもがいるのは幸せなことだが「親と口をきかない」「いつまでも自立しない」など大きな悩みの種になることもある。
自分でいくら人生のプランを立てても、ちっともその通りにいかない、というのが女の人生だ。  

パーソナリティーを務めた女性アナウンサーにも私にも子どもはおらず、何年に一度かいっしょに仕事をする機会があるが、お互い状況はあまり変わらない。
放送が夜11時近くに終わってから「飲みに行こう」と街にくり出し、「私たちはずいぶん気楽な生活だな」と苦笑してしまった。

 政府は「1億総活躍」というキーワードを掲げ、安心して子どもを産み育て、介護で仕事をやめる必要のない社会を作ろう、と言っている。
そうなるのはおおいに歓迎だが、それでも「こう生きなさい」と国や行政に決められたくはないし、自分で決めたとしてもなかなかうまくいかない場合もある。

そのときに「私の人生、失敗ね」と自信を失う必要はない。
どんな人生も、その人にしか歩めない、世界にふたつとないものだからだ。
それが選んだ結果であっても期せずしてそうなった場合でも、自分で「私の人生、これでよし」と誇りに感じるべきだ。

 私にしても、「これしかない」と強く思って仕事ひとすじに生きてきたわけではない。
はっと気づいたらこの年齢、という感じだ。
それでも長いつき合いの女性アナとおいしいワインで乾杯していると「まあ、この人生、悪くないな」と思えてくるからおもしろい。
           (精神科医) 
posted by 小だぬき at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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