牧太郎の大きな声では言えないが…
防衛大生という手もある
毎日新聞2016年4月4日 東京夕刊
4月になると“大失敗”を思い出す。
早稲田大新聞学科に合格した1963年4月。
生まれて初めて「アルバイト」に挑戦した。
東京・麹町、お堀端のレストラン「東條会館」の皿洗い。
多分、時給80円だったと思う(当時、学生食堂のカレーライスが50円だった)。
その初日、皿を洗う前に、過って熱湯が入った鍋にぶつかって……両足に大やけど。
病院に運ばれた。
でも、こんな屈辱的なことは忘れて、アルバイトは何でもやった。
浅草六区・映画館街でサンドイッチマン(これが一番安い時給70円)。
新宿の「高野フルーツパーラー」でウエーター(面接試験があって身長が高い方から採用された)。
信濃町の学習塾の先生(受付の女子大生と親しくなって……)。
浅草観音裏のとんかつ屋「豚笛」のせがれの家庭教師(店主の女性は笛が得意な芸者さんで、とんかつを食べさせてくれた)……アルバイトは楽しかった。
母が学費だけは払ってくれたから、稼いだ金で旅行に行ったり……恵まれていたと思う。
それが最近、学生アルバイトの目的は「学費」になっている。
多くの親が学費を負担できない。
奨学金を借りると、卒業する時点で250万円から500万円の借金を背負う。
社会人になって(非正規雇用者の場合)返済が難しい。
2004年、「日本育英会」が独立行政法人「日本学生支援機構」になり、独立採算を求められ「奨学金の取り立て」が厳しくなった。
返済を3カ月以上延滞すると、信用情報機関に通知されブラックリストに載る。
クレジットカードも作れない、住宅ローンも借りられない。
だから、学生は在学中にアルバイトで学費を稼ごうとする。
勉強する時間もない。
恵まれた学生もいる。
幹部自衛官を養成する防衛大学校の学生は特別職国家公務員。
4年間で約250万円相当の学費が免除され、月10万9400円の学生手当、年約33万9000円のボーナスまで。
しかも今春卒業した419人のうち47人が、堂々と自衛官に任官するのを拒否した。
事実、「防衛大という手もある」と考える若者もいる。
「青春の格差」は深刻である。(客員編集委員)