香山リカのココロの万華鏡 .
真実のあるところ
毎日新聞2016年5月17日 首都圏版
すでに一部で話題になっている森達也監督の新作ドキュメンタリー「FAKE」の試写を見た。
この作品の主人公は佐村河内守氏と妻だ。
忘れかけている人もいるかもしれないが、佐村河内氏は聴覚障害を持ちながら数多くの音楽作品を発表し、テレビの特集番組などで「現代のベートーベン」とまで称賛された作曲家だ。
ところが、あるとき別の作曲家が「私は佐村河内氏のゴーストライターとして18年間、作曲をしていた」と発表。
聴覚障害についても「会話できていた。障害があるとは感じなかった」と否定的なコメントをしたため、大騒動となった。
その後、一度、記者会見を開いた後、佐村河内氏はほとんど公の前に姿を現していない。
その自宅に森監督とカメラが入り現在の生活や夫婦の素顔に迫ったのがこの作品だ。
印象的なシーンはいくつもあるが、どちらかというと感情的な佐村河内氏とは対照的に、いつも落ち着いている妻の姿が心に残った。
とことん追ってくるマスコミに疲れきっている佐村河内氏に、妻は何かを尋ねることもなく、いつも淡々と食事の支度をしたりインタビューに来たジャーナリストにケーキを出したりしている。
世間からの冷たい風から寄り添うようにして身を守る夫婦それぞれに、監督が「(相手を)愛してるの?」と尋ねるシーンがある。
その回答が何かは実際の作品で確かめてもらいたいのだが、答えが出るまでにも妻のほうはかなり時間がかかる。
では、妻はこの間、何も感じていなかったのだろうか。
それは違う。
カメラは妻が感情をそっと表に出す様子もとらえているが、それを見ていると「ああ、心の中にはいろいろあるんだろうな」と思わずにはいられない。
最近は「言ったもの勝ち、大きな声の人が勝ち」という雰囲気があり、自分の思いをはっきり表明したり喜怒哀楽をあらわす人の意見が通りやすい。
しかし、多くを語らなくてもさまざまなことを感じたり考えたりしている人もいるし、何かのときにも信用できるのは「沈黙の人」のほうだったりもする。
真実は言葉があるところにだけではなく、この妻のように静かにたたずむ人、黙々と生活を営む人の側にある場合もある。
この一大ドラマの中で自分を変えることなくすごした人がいたことに、私は救いを感じた。
人間とは、夫婦とは、そして「ウソ」と「ホント」を決めるのは誰か。
公開されたら多くの人に見て考えてもらいたい快作だ。
(精神科医)


いつもありがとうございます
今日は通院日です
色々話してスッキリしてきます。
帰りに美味しい物を食べて、素敵な一日にしてくださいね。