富家孝「危ない医療」.
大橋巨泉さんは、
不適格な医師に「殺された」のか?
在宅医療の危険な問題点が露呈
2016.08.21Business Journal
文=富家孝/医師、ラ・クイリマ代表取締役
「もし、一つ愚痴をお許しいただければ、最後の在宅介護の痛み止めの誤投与がなければと、許せない気持ちです」
これは、去る7月12日に亡くなられた大橋巨泉さん(享年82歳)の夫人・寿々子さんが、メディアに公表したコメントだ。
その後、巨泉さんのご家族や事務所関係者は、死に至る経緯を「週刊現代」(講談社/8月6日号)で、かなり克明に語った。
この寿々子夫人のコメントと巨泉さんの死に至る経緯は、その後、大きな波紋を呼んだ。
それは、日本の在宅緩和ケアが抱える問題を浮き彫りにしたからだ。
筆者も近年、終末期医療の現場にかかわってきた実体験に基づき、今回はこの問題について考察してみたい。
治療の経緯
巨泉さんが最初のがんの手術を受けたのは、2005年6月だった。
この時のがんは胃がんで、巨泉さんは摘出手術を選択した。
それは、「疑わしきはすべて切る」という考えを持っていたからだ(「週刊文春」<文藝春秋/8月4日号>より)。
その理由は、巨泉さんが大学3年のとき母親を子宮がんで亡くしたが、これが誤診だったからだ。
当初の医師の診断は「子宮筋腫」で、手術の必要はないというものだったが、亡くなってみるとすでにがんは遠隔転移していた。
そのため、巨泉さんは自身ががんになったときは、ともかく手術するという考えになったのである。
巨泉さんの2度目のがん摘出手術は13年11月で、この時は中咽頭がん。
そして14年11月、肺と食道の間にある「縦隔」のリンパ節に腫瘍が見つかり、放射線治療を受けた。
3度目の摘出手術は15年5月で、この時は肺がん。
右肺の約3分の1を摘出した。
さらに、同年10月、縦隔のリンパ節に腫瘍が2カ所発見され、腫瘍の除去手術を受けた。
その後、放射線治療などを受けた後、今年4月5日に退院し、千葉県内の自宅で在宅医療を受けることになった。
もう少し長生きできた
以上の経緯を見ると、退院後の在宅診療は、終末期の緩和ケアであり、これはがんによる痛みを少しでも緩和し、安らかに死を迎えるためのケアである。
したがって、ご本人の希望をできるだけかなえる治療が求められる。
しかし、それを担った近所の在宅診療所の院長であるA医師は、巨泉さんが「背中が痛い」と言うと、単純にモルヒネ系の鎮痛剤を処方しただけだった。
しかも、その量を減らそうとはせず、巨泉さんはひとりで歩けなくなるほど体力が低下し、意識も薄れるようになった。
それで、慌てたご家族は、ツテのある医師らに相談し、再びがんセンターに再入院したが、もう手遅れだった。
前出「週刊現代」記事には、次のようなご家族のコメントが載っている。
「親族はみな後悔の気持ちでいっぱいです。
あとで調べたら、A氏は皮膚科や美容形成外科の分野で有名な医師だったと知り、驚きました」
はっきり書かせていただくが、巨泉さんはもう少し長生きできた。
それも最期まで、QOL(生活の質)の面からも意識を失うことなく、穏やかな日常生活を送れたはずである。
在宅医の「不適格」さ
ではなぜ、そうはならなかったのか?
まずいえるのは、在宅緩和ケアを担当したA医師の「未熟」というか、「不適格」さである。
通常、在宅医療は担当医の独断ではできず、看護師や薬剤師もベッドサイドに赴き、相談しながら進められることになっている。
また、入院先だった病院との間に、患者の状況に関して十分な情報共有が求められる。
つまり、こうしたコミュニケーションが著しく不足していたと思われる。
A医師は、単にモルヒネ等を投与すればいいとだけ考えていたようだ。
じつは、在宅診療における緩和ケアは、医師免許と麻薬使用者免許を持っていれば、どんな医師でもできる。
臨床経験の有無は問われない。
なぜなら、法的には緩和ケアをするための特別な講習や資格は定められていないからだ。
つまり、経験などなくても、免許さえあれば医者なら誰でもできてしまうのだ。
そのため、在宅診療を行う医師は玉石混交状態で、不適格な在宅診療医は全国にいっぱいいる。
国は数年前から、政策的に「看取り」を病院から「在宅」に変更し、在宅医を増やしてきた。
現在、在宅での看取り(自宅で死を迎えること)は10パーセントほどだが、これを25パーセントに高めようとしている。
ということは、不適格な在宅診療医に任せたら、人間らしい最期は迎えられないということだ。
残念だが、誰が適格で不適格かは一般にはわからない。
情報公開もされていない。
日本の医療政策「在宅重視」の犠牲
次に、緩和ケアで使われる鎮痛剤だが、「モルヒネは怖い」という見方がある。
しかし、それは誤解で、医療用麻薬は使い方さえ誤らなければ決して怖いクスリではない。
日本では、「WHO方式がん疼痛治療」が普及しており、その治療が適切に行われている限り危険性はない。
要するに使い方が問題で、単に患者の痛みを楽にするだけのために投与するというのは、医者の“おざなり診療”の典型だ。
疼痛治療の本来の目的は、「痛みを軽くすることで生活の質を高める」ことにある。
巨泉さんは、モルヒネ投与で体力を落とし、意識を失うまでになってしまったが、本来は逆である。
疼痛治療により体力が回復し、日常生活が楽になっていなければならなかった。
残念だが、巨泉さんの場合は、終末期に最悪の在宅医と日本の医療政策「在宅重視」の犠牲になってしまったというほかない。


今までも遺族の知らない医療ミスで亡くなった人って多いと思う
未だに・・・
同僚だった人のお父さんが 肺炎で入院して 院内感染で死亡した例もあります。
医師のプロとしての職業倫理と日々の研究と向上心を信じるしか患者にはありませんから・・・。