与党税制大綱
どこが「改正」なのか
2016年12月9日 東京新聞「社説」
与党がまとめた来年度税制改正大綱は「改正」というにははばかられる内容だ。
選挙を意識して歪(ゆが)められたり、密室で短期間に決めるやり方は国民に不信感、不公平感を生む。
もう改めてほしい。
最大の焦点といわれた所得税の配偶者控除の見直しさえ、選挙風の前に訳のわからないものになってしまった。
「働き方改革」とか「女性が就業調整を意識しなくて済む仕組みにする」と宣言していたはずである。
当初は配偶者控除を廃止し、夫婦世帯を対象とした夫婦控除を創設しようとしたが、衆院の解散・総選挙が浮上した途端、増税批判を恐れて撤回した。
結局、配偶者の年収上限を現行の百三万円から百五十万円に引き上げ、税収減を補うために世帯主の年収制限を設ける。
「百三万の壁」を少し移動させるだけだ。
配偶者控除は本来、所得ゼロの専業主婦のための減税措置だが、逆に増税となる。
パート主婦は基礎控除と配偶者控除の二重控除を受けるが、その問題には手を付けないまま減税を拡大する。
社会保険料を支払うことになる百三十万円や百六万円の壁も残り、税だけの対応は中途半端である。
国民に身近な酒税見直しも理解しがたい。
依存症対策としてアルコール度数を基準にするのが常識的だが、そうではない。
例えば、ビール、発泡酒、第三のビールの税率を今後十年かけて統一するという。
しかしビールの税金は引き下げても諸外国に比べて突出して高い。
度数基準なら大幅な引き下げが実現するが税収の稼ぎ頭を失いたくないのだろう。
要するに税金をとる側の都合だけで国民は蚊帳の外ということだ。
それは税の決め方に大きな問題があるからだ。
年末のあまりに短い期間に与党のごく一部の議員が密室で決める。
財務省と族議員らの水面下の折衝も、もちろん国民は知るよしもない。
決まってから初めて知らされ、国民の意見が入り込む余地はほとんどない。
安倍晋三首相は「代表なくして課税なし」という税の原則をよく口にするが、その意味するところは「税を納める主権者たる国民の立場に立って税は決められなければならない」ということである。
実際には国民は「税はとられるもの」との重税感が強く、税の使われかたへの不信感も根強い。
せめて政府が税制改正案を公開し、与野党で一年がかりで議論すれば国民の理解も深まるはずだ。