「親世代の常識」はこれからも通用するのか?
現在、私たちは少子高齢化、国際化、情報格差……といった未解決の課題を、未来の子どもたちに積み残していっている状況にある。
一方、AIなどのテクノロジーが日々発達し、複雑に変化していく社会の中で生き抜くには、既存の価値観にとらわれることのない柔軟に対応できる力が必要になってくるはずだ。
そうした環境を生き抜くために必要とされる学力とは何か。
Z会の木信太郎氏は、「学力の3要素」と呼ばれるものが重要視されていると指摘する。
「学力の3要素とは、
『知識・技能』
『思考力・判断力・表現力』
『主体性・多様性・協働性』を指します。
『知識・技能』については、AIの発達によって不要になるという議論も一部にはありますが、新しい発想や考え方を生み出すにあたって、知識・技能は不可欠のものです。
二つめの『思考力・判断力・表現力』は、これまでも難関大学の入試では記述式として問われてきたものです。
2021年から始まる『大学入学共通テスト(仮称)』で記述式が導入されれば、より多くの受験生に問われるようになってくるでしょう。
そして、最も必要とされるのが三つめの『主体性・多様性・協働性』です。
労働人口の減少により、外国人や女性・高齢者など多様な人材活用が必然となっていく日本において、異文化の人と積極的に協働していく力は、ますます欠かせない能力となってきています。これらは筆記試験の点数では測れない力であり、今までの日本の教育に足りなかった部分だと考えられます」(木氏)
実際、現場では「アクティブ・ラーニングや協働的な学びが必要だ」という方向で改革が進んでいるが、そうした新しい教育の方法論が確立されていないというのが木氏の見方だ。
では、どういった教育をしていけば、こうした新しい学力を身に付けることができるのか。木氏によれば、三つのポイントがあるという。
「まず一つは『知識』についてです。
テストのためではなく、知識を得ることで何ができるのか、つまり、知識を目的ではなく手段として使えるような学習環境が必要です。
二つめは『話し合い』についてです。
すでにアクティブ・ラーニングを始めている教育現場も多くありますが、実際には話し上手な子どもだけが話す傾向にあります。
だからこそ、全員が必ず主体的に参加できる仕組みづくりが必要となります。
三つめは『社会とのつながり』です。
学校で勉強したことが社会とつながっていなければ単なる机上の勉強で終わってしまいます。
そうならないようなサポートが必要です」
Z会では、今までも「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」の育成に力を入れて取り組んできたという。
しかし「従来の紙ベースの教育では、主体性・多様性・協働性を育むことには限界がある」(木氏)中で、Z会が着目したのが最新のICT技術の活用だ。
紙を一切使わず、すべての学習をタブレット上で行い、地域や年齢などを超えた学びの場をつくることで、主体性・多様性・協働性を育むことを目指す。
それがAsteriaの最新講座「総合探究講座」だ。
多様な人が集まる場で
高水準のアクティブ・ラーニングを
「総合探究講座」とは、どのような講座なのか。
木氏は、その特色について次のように語る。
「『総合探究講座』は、最新のIT技術とZ会の85年の指導実績とを組み合わせることで、どこに住んでいても同じレベルのアクティブ・ラーニングができるように考えられた中学生対象のオンライン講座です。
この講座では、人とのつながり、知識のつながり、社会とのつながりといった“つながり”をキーワードとしています。
具体的には、『協働学習』『個人学習』『探究学習』という三つの学習形態で、社会的な課題を発見・解決していく能力を養っていくことを目指しています。
『協働学習』『個人学習』『探究学習』は、どの学習からでも始められるようになっていますので、関心のあるところから主体的に学んでいただけます」
まず、「協働学習」では、社会的なテーマを扱った議論を通じて協働するために必要な力を養う。
教材は、聖心女子大学益川弘如教授の監修のもと、「ジグソー法」という手法を参考に作成。
3人グループを基本単位とし、決められた時間にオンライン上に集合する。
たとえば、「中学生にも選挙権はあったほうがよいのか?」といったテーマが提示され、各受講者はテーマに対し、「まだ中学生には無理ではないか?」などの考えを書いていく。
そのうえで、今度は全員に資料が与えられ、「海外では選挙権年齢を下げる国が多い。その理由は……」といったことを、ほかの2人に口頭で説明し、議論する。
「その際、与えられる資料は3人それぞれ違うものです。
自分の持っている資料の内容について、ほかの2人は知りません。
自分の資料について、自ら主体的に説明・共有しなければ、その場に貢献できないという仕組みをつくることで、全員に参加を促しているのです」(木氏)
議論の際には、厳しい選考を経た大学生、大学院生のファシリテーターがサポートしていく。
各受講者は資料や自分の知識、経験に基づき「まず大人が選挙に関心を持つべき」「では、選挙への関心を高める方法とは?」など、いろいろな意見を出し、議論を深めることで、グループとしての結論を出していく。
そのうえで、あらためて最後に自分の意見を書くことで、課題について自分ごととして理解を深めるように工夫されている。
一方、「個人学習」は「問題解決」や「コミュニケーション」に必要なスキルなど、教科外の知識の獲得を目指すものだ。
受講者は映像で講義を受け、それを踏まえて実際の社会問題などを扱った問いについて解答する。
その答えをZ会で判定し、解説するという仕組みだ。
「問題解決では、明確な答えのない問題を仲間と解決していくために必要な力を身に付けます。そのために、手持ちの情報から主張を組み立てる力、仮説形成や反論により議論を深める力、議論をもとに次への行動を提案する力を養っていきます」(木氏)
MITメディアラボ所長
・伊藤穰一氏が登壇!
「探究学習」では、子どもたちが先端的な研究や仕事、現代社会の課題について考えるために、研究者や専門家による本格的な講義が行われる。
大学教授などに加え企業で働くビジネスパーソンにも登壇してもらう方針だ。
「この探究学習は同じ月の協働学習と関連したテーマを扱い、ライブ配信で講義が行われます。社会の第一線で活躍している方たちの意見を聞くことで、協働学習では得られなかった視点を得ることを目的としています。
プレゼンターに対しチャットで意見を述べることもできるので、議論に参加することが可能です」(木氏)
7月28日に開催される第1回目の「探究学習」講座配信では、MITメディアラボ所長である伊藤穰一氏がプレゼンターとして登場する。
伊藤氏の語るテーマは「新しい時代に必要となる学びとは〜21世紀に必要なイノベーションとコラボレーション」を予定している。
「伊藤氏は、教育より学び、つまり、受け身で勉強するのではなく、自ら参加して、学び続けることが大切だとおっしゃっています。
これから新しい時代になるにつれ、知識はどんどん陳腐化していきます。
だからこそ、学び続ける姿勢が大切になってくるのです。
これは『総合探究講座』のねらいとも合致するものです」(木氏)。
木氏は、「総合探究講座」を通じて、子どもたちが「こんな仕事をしたい」「こんな社会貢献をしたい」という主体性を伸ばしてほしいと語る。
「今、社会が変わる中で、学び方も大きく変わろうとしています。
変化を怖いと感じる方も少なくないでしょう。
でも、変化はチャンスでもあります。
他人と協力し、自分でも学び続ける姿勢を身に付けることで、どのような世の中になっても世界で活躍できる人たちになってほしいと思っています」