うつ病の予防のカギは
運動・睡眠〜
休日の睡眠がいつもより
2時間以上長ければ<寝不足>
2017.10.31 ヘルスプレス
文=里中高志
精神保健福祉士。
フリージャーナリスト。
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。
精神保健福祉ジャーナリストとして『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。
著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。
2014年に行なわれた患者調査によると、うつ病を中心とする気分障害の患者数はおよそ112万人――。
また、少し古いデータになるが、2002年〜2005年に行なわれた疫学調査によると、日本の成人人口をおよそ1億500万人とすると、220万5000人が過去12カ月の間にうつ病の診断基準を満たしたと推計できるという。
もはや<国民病>とも言えるうつ病だが、じつは「生活習慣病」に似ているところがある。
「健康なときから自身の心と身体の状態に気を配ることで予防することができる」と話すのが、国立精神・神経医療研究センター、精神保健研究所の西大輔医師だ。
西医師は、かつて災害医療センターで自殺未遂患者の救急医療に携わっていた経験から、深刻な事態に至る前に<うつを予防する方法>を研究するようになり、2012年には『うつ病にならない鉄則』(マガジンハウス)という著書も刊行している。
西医師のナビゲートのもと、
@睡眠と運動、
A栄養、
B思考パターンの3回に分けて、うつの予防法について紹介したい。
休日の睡眠が平日より
2時間以上長ければ
<睡眠不足>の証拠
「現在行なわれているうつ病の治療法は、抗鬱薬によるものが主体です。
しかし、私は薬物ではないアプローチ、たとえば栄養や運動でうつ病を予防できないか――という研究をしています」
「気をつけていただきたいのは、<薬は必要ない>と言っているわけではないということ。
重症のうつ病に薬物療法が有効であることは明らかですが、そのような深刻な状態に至る前に、うつを予防したり重症化を防いだりするためのエビデンスを集めています」
こう話す西医師が、まず提唱するのは睡眠の重要性だ。
不眠が続くとうつ病が発症しやすくなるだけでなく、睡眠不足によって肥満や糖尿病などの生活習慣病になりやすくなること、さらにうつ病と生活習慣病との間に密接な関係があることも明らかになっているという。
「平日の睡眠時間が少なくても『休日に寝だめをすれば大丈夫だ』と考えている人は多いのですが、それはいわば<平日に借金をして休日にその返済>をしている状態」
「どうしても忙しくて睡眠を長く取れないのなら仕方ないが、休日の睡眠時間が平日より2時間以上長かったら、それは平日の睡眠が足りていないのだと自覚をすることも大切です。
睡眠時間を30分〜1時間増やす余裕がまったくない人って、じつはそれほどいないものです」
ついつい寝る前にネットサーフィンやゲームに時間を費やす人も、<睡眠時間の確保=うつ病の予防>を意識して、少し早めに眠りにつく習慣をつけるのがいいかもしれない。
うつが深刻になる前に
カラダに目を向けること
そして、西医師が睡眠と並んで力説するのが運動などを通して<身体に目を向けること>だ。たとえば、有酸素運動などを継続的に行うことでうつ症状が改善することが多くの研究から示されている。
また、最近では寝る前の10分程度のストレッチでも寝付きがよくなり、メンタルヘルスが改善することを示した研究結果もあるという。
軽いジョギングやウオーキングでも人によっては効果的かもしれない。
だが、その程度の運動でも、うつが重くなると、とてもではないがやる気が起きなくなるだろう。
だからこそ西医師は、うつになってしまう前から身体に目を向けることを勧めるのだ。
「予防のうえで一番大切なのは、運動量よりも自分の身体に目を向けること。
身体のちょっとした不調や体の使い方のクセなどは気持ちの変調に気づくためのサインになりますし、身体から働きかけてメンタルヘルスがよくなることを実際に経験しておくと、落ち込んだ時にも役に立つと思います」
(取材・文=里中高志)
西大輔(にし・だいすけ)
国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所精神保健計画研究部
システム開発研究室長。
2000年、九州大学医学部卒。
国立病院機構災害医療センター
精神科科長を経て2012年より現職。
2016年より東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻精神保健政策学分野連携講座准教授を併任。
著書に『うつ病にならない鉄則』(マガジンハウス)がある。
専門:精神保健学、うつ病・PTSDの予防、栄養精神医学、産業精神保健、レジリエンス。