メディアスクラムで
壊される犯罪被害者
・加害者家族の日常
2018/06/14 ハーバー・ビジネス・オンライン
こんにちは。松本麗華です。
連日、立て続けに衝撃的なニュースが報じられる昨今ですが、先月、新潟市のJR越後線の線路上で女の子の遺体が見つかるという痛ましい事件があったことも、まだ記憶に新しいでしょう。
ご家族や親族・地域の方々の受けた衝撃は計り知れません。
悲しいことに、亡くなった少女の周辺では、マスコミの取材による「二次被害」が発生しているといわれました。
先月末に掲載された産経ニュースの記事によると
「午前零時過ぎに、家のチャイムを鳴らして取材を求めたマスコミがいた」
「児童を尾行して家に到着したら、インターフォンを鳴らして取材しようとしたマスコミがいた」といった、行き過ぎた取材の実態が書かれています。
住民の中には、報道関係者を逮捕してほしいとSNSに投稿した方もいるようです。
産経ニュースでは「保護者・児童の感情と、マスコミの『報道の自由』の両方に配慮しなければならない」と書かれていますが、わたしには、こういった取材がそもそも「報道の自由」として配慮されるべきものとは思えません。
犯人逮捕のためという大義名分があるならまだしも、既に容疑者は逮捕されています。
また少女のご家族は
「(略)今は一日も早く、地域の方々や私たち家族が穏やかな生活を取り戻せることを願うばかりです。
どうかこのような心情をご理解いただき、今後、家族や親族等に対する取材・撮影等についてはご遠慮いただきたいと思います」との声明を発表し、取材の自粛要請をしました。
しかしなぜか、多くのマスコミは要請の部分をまるごとカットし報じませんでした。
マスコミの方は、わたしに「被害者感情に配慮しなければいけない」「麻原裁判はおかしかったと思うけど、被害者の気持ちを考えると報道できない」といいます。
果たして、マスコミは本当に被害者感情を考えているのでしょうか。
もし考えているなら、ご家族の言葉をそのまま報じ、取材も節度あるものとなったでしょう。
ご家族が声明を出し、穏やかな生活を取り戻したいと願っているのに、少女の個人情報を周囲の人に聞き出し、報道するのは、誰の、何のための報道なのでしょうか。
わたし自身も、これまでマスコミの過剰取材・報道に苦しめられてきました。
少しだけ例を挙げます。
一人でスーパーで買い物をしていたとき、テレビ局のクルーとリポーターに見つかり、追いかけられたことがあります。
撮られたくない一心で逃げましたが、結局、路地の行き止まりまで追い詰められ、マイクとカメラを向けられました。
その時、「悪いことをしたから逃げた」と誤解されるのを恐れ、「取材には応じます。その代わり、わたしの隠し撮りや逃げるシーンは使わないでください」と取材スタッフにお願いしました。
しかし、番組の放送を見ると、わたしが逃げるシーンが使われており、その上、インタビューシーンも放送されていました。
当時のわたしは13歳。何の後ろ盾もない両親のいない未成年で、約束を守るに値する人間ではないと判断されたのでしょう。
ある時は、大きな業務用ビデオカメラを担いだマスコミが、マンションのベランダに入って窓をがらりと開けて部屋に侵入してきたこともあります。
夜に見知らぬ男性が踏み込んできたので、怖くてたまりませんでした。
プールに入っていることころを隠し撮りされたこともあります。
わたしが誰であるか特定した上で、水着姿を無断で放送されたことに、思春期だったわたしはどうしていいかわからなくなりました。
そのときの恐怖や悲しみは、今でも忘れることができません。
◆いつ、自分自身も
加害者家族になるかわからない
視聴者・読者であるわたしたちも、マスコミの行き過ぎた報道やその情報の受け取りに方ついて、考えていく必要があるように思います。
そもそも過剰な取材をするのは、良いネタを掴んで視聴率や販売部数を上げるためです。
仮に、わたしたちが人の不幸に関することを知りたいと望めば、マスコミはこぞって不幸な情報を集めます。
ゴシップ報道のように、個人のプライバシーを暴露してバッシングする記事をわたしたちが求めれば、プライバシー侵害に苦しむ人が今後も後を絶たなくなります。
マスコミの報道姿勢に疑問をぶつけると、
マスコミの方は「いやあ、見る人がいるからね……。
視聴率を見て、何を取り上げるか決めているんですよ」と言います。
視聴者・読者の多くが冷静になり、センセーショナルな報道に見向きもしなくなれば、必然的にマスコミの行きすぎた取材もなくなるのではないでしょうか。
現在のマスコミの報道のあり方を変えていくにはどうしたらいいのか、よく考えます。
わたしには何の力もありません。
でも、できることがあります。
報道被害にあったことを黙らないこと、報道のあり方に疑問の声をあげることです。
少しでも多くの人が報道に対し、「おかしい」と声を上げれば、状況は少しずつ改善していきます。
マスコミの方と話していて思うのは、考えていた以上にネットの声や読者、視聴者からのフィードバックを気にしているということです。
明日には、自分の親族や知り合いが犯罪の加害者や被害者になるかもしれない。
もしかしたら、犯罪に巻き込まれるかもしれません。
自宅の近くで事件が起こったとしたら、それだけで日常が奪われてしまいます。
わたしもある日突然、加害者家族とされ、マスコミの過剰報道により、傷ついてきた一人です。
12歳までわたしは、マスコミに追われることがあるなど、夢にも思ったことはありませんでした。
もし、自分が犯罪に巻き込まれ、注目を集めてしまったらと、一度考えてみていただきたいです。
関係ないと思っていらっしゃる皆さんが「自分も報道被害にあうかもしれない」という意識をもって、報道を見るようになったとき、報道のあり方は変わっていくのではないでしょうか。
【松本麗華】
文教大学臨床心理学科卒業後、産業カウンセラーの資格を取得。
心理カウンセラーとして活動する他、執筆や講演、ヨガのインストラクターもしている。
日本産業カウンセラー協会、日本人間性心理学会所属。
自身の半生を振り返る手記『止まった時計』を上梓。
実の父親である麻原彰晃は複数の精神科医から外的な刺激に反応することができない「昏迷」という状態にあるとされ、治療されることなく裁判が終結。
10年以上、面会ができていない。
現在も、父の治療と面会を求め続けている。
健康情報とお得情報、割引クーポンが大好き。
Twitter @asaharasanjo
映画「日本の黒い夏」でも松本サリン事件での 報道姿勢や警察捜査の問題点を丁寧に描いています。
思い込みや多数派の見方という雰囲気が作られると 真実追求より 犯人視した人を攻撃するようになる 怖いです。