外国人が心底驚いた
日本人の「夏の過ごし方」
炎天下の中スポーツまでしちゃう根性
2018/07/08 東洋経済
アナスタシア・新井・カチャントニ
: 通訳、翻訳家、ライター
「暑中お見舞い申し上げます。厳しい暑さが続いておりますが……」
今年も暑中見舞いの季節になりましたね。
皆様いかがお過ごしでしょうか。
私はお陰様で、ギリシャで元気に過ごしています!
初めて「暑中見舞い」という存在を知ったのは、ある夏の日でした。
日本人の夫がパソコンに向かってカタカタと何かを書いていました。
それは何かと聞くと「暑中見舞い」と。
そういえば、『サザエさん』で見たことがあるなぁ、というのが初めの印象でした。
もちろん、『サザエさん』では、波平さんが筆を使って書いていたのですが……(笑)。
「お体には気をつけて」なんて大げさだと思ったけど… 暑中見舞いというのは、とてもすばらしい習慣だと思います。
ずっと会っていない友人や知人と連絡を取るきっかけになりますし、そこから久しぶりに会おうか、なんて話にもなるかもしれません。
ギリシャにもクリスマスカードを出す習慣があるにはありますが、書く人はあまり多くありません。
手紙を書くと、相手に「私はあなたのことを気にかけているよ」と伝えることができますよね。
最近、剣道の先生からいただいた手ぬぐいに「聲無聴(こえなきにきく)」という言葉が書かれていました。
調べてみると、「聲無きに聴き、形無きを視る」という言葉から来ているようでした。
人が何か言ったりしたりする前に、それを感じ取って行動するということだそうです。
暑中見舞いはまさに、このような日本人の考え方を表していることの1つですよね。
日本人は、見逃してしまいそうな小さな変化を読み取るのが得意で、それがきめ細かな対応など、日本ならではのサービスを可能にしているのだと思います。
最近は、暑中見舞いを書く人も少なくなっていると聞きましたが、私にとっては、なくなってほしくない習慣の1つです。
それにしても、「厳しい暑さが続きますが、くれぐれもお体にはお気をつけて」なんて大げさな表現だなと、初めのころは思っていました。
アテネの夏も暑いですが、みんなバカンスモードで、海に行ったりバーベキューをしたり、夏なりのゆったりとした生活をしているので、「お体にお気をつけて」というほどではありません。
むしろ夏は楽しくて、朝方まで時間を忘れてパーティをすることがよくあります。
ついつい飲みすぎたり食べすぎたりしてしまうので、それを「気をつけてください」と言っているのかと思ったくらいです。
しかしながら、日本の夏を体験して、日本人の言っている意味がわかりました。
日本に着いて飛行機から降りた瞬間、強烈な湿気を感じました。
まるでサウナに入っているようでした。
そのおかげで、夏に日本に行ったときは肌の調子は絶好調でしたが(笑)、滞在中は本当に大変でした。
アテネでも気温は高く、日差しも強いですが、カラッとしているので日陰に入ってしまえばなんとか暑さを凌げます。
でも日本の暑さは、クーラーを入れるくらいしか、本当に凌ぎようがないですね。
日本の夏はどこへ行ってもクーラーが入っていて驚きましたが、それも納得です。
クーラーなしではやっていけませんね。
この暑い中で運動をするなんて!!
私は、アテネで日本語を教えているのですが、生徒たちは「夏に日本へ行きたい!」とよく言っています。
桜を見ることができる春も人気ですが、やっぱり若い人にとっては夏のイベントの方が魅力的に映るようです。
もちろん彼らもアニメやドラマなどのファンなので、夏のイベントに関しては、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』や『ハチミツとクローバー』などの学園物から情報を仕入れています。
そんな彼らは「海で泳いで、スイカ割りをして海の家でかき氷を食べて、夜は浴衣を着てお祭りに行って花火を見る。
肝試しもやってみたい」。
そんなことを言っていますが、完全に日本の夏を甘く見ていますね。
それからもう1つ驚いたことは、夏の暑さの中でも普通に運動をしていることです。
私たちが観光しているだけでも汗だくになっているのに、その状況で運動するなんて、ギリシャ人には考えられません。
夫に連れられて、ある道場の稽古に参加しましたが、空調設備もない中で激しい稽古をしていて、本当にびっくり仰天しました。
その先生は、「夏は暑いからそれほどキツいことはしないけど、暑さに負けずに稽古することで精神が鍛えられる」と仰っていました。
これも剣道の大切な部分だと思い、ギリシャに帰ってから道場の人に声をかけて夏の日中に稽古をしてみましたが、10分経つと1人が面を取り、もう10分経つとまたもう1人……という感じで、1時間後に残ったのはたったの3人でした。
そのときギリシャ人が話していたことは、「日本人は化け物なのか?」ということです。
もちろん、日本の稽古は暑さに加えて湿度も非常に高い中で行われます。
改めて日本人の凄さを感じた出来事でした。
ギリシャには学校の部活はほとんどなく、運動したい子どもたちは地域のスポーツクラブに行きます。
だいたいのスポーツクラブは年度初めの9月に始まって6月で終わります。
7月と8月は活動がありません。
ギリシャの学校は6月の中旬から9月中旬までの約3カ月間が夏休みです。
日本に比べるとだいぶ長いですが、この期間はスポーツクラブも活動がありません。
7、8月の時期は両親も仕事を休むことができるので、バカンスに行く家族が多いことや、学校のない期間に共働きの家庭は子どもを田舎に住む祖父母のところに預けることも多いため、子どもが集まらないというのが主な理由ですが、一番の理由は「暑いから」です。
日本人が暑い時期も稽古を続けるのは?
私たちの剣道クラブにも小学生がいますが、夏に入ってから出席率がよくなかったので親御さんに様子を尋ねると、「学校も終わったから、剣道もまた9月から」という言葉が返ってきました。
暑さで集中力を保ちづらい夏に練習しても効率は上がらないからその間はゆっくりして、気温が下がって運動しやすくなったらまた再開する。
そのような考え方が主流です。
日本人が夏の暑い時期にも変わらず稽古をするのは、普段の生活のペースを変えたくないからなのではないかと思います。
一度ペースが乱れてしまうと、それを立て直すのが難しいから、なるべく一定のペースで生活をしたいと思っている。
私の目にはそんなふうに映ります。
確かに、一定のペースで生活をしていれば余計なことに気を使わなくて済むので、それは効率的な方法と言えるかもしれません。
また、「一度決めたことは最後までやる」という意思の強さを鍛えることもできるように思います。
日本人は責任感が強い人が多い印象がありますが、これも1つの理由かもしれません。
反対にギリシャ人の生活は、予定が変わることがとても多いです。むしろ予定どおりにいくことのほうが少ない気がします(笑)。
状況に合わせて臨機応変に対応しているというと聞こえはいいですが、そのときの気分で決めていることも少なくありません。
これに対応するのはなかなか大変ですが、その分気持ちを切り替えるのは上手だと思います。
急な変更があっても気持ちを引きずることなく、すぐに次のことに気持ちを集中させるのは割と得意です。
先日、このような日本とギリシャの違いを実感する出来事がありました。
ギリシャは残念ながら今回のサッカーワールドカップに出場できませんでしたが、サッカーが好きな人が多いのでテレビで観戦している人は多いです。
日本とギリシャは前回のブラジルワールドカップで同じグループリーグだったので、日本のことを気にしている人も意外に多いです。
この間、友人たちとお茶をしているときに話題になったのが、日本とコロンビアの試合でした。
試合が始まってすぐ、コロンビアの選手にレッドカードが出され、コロンビアは10人で戦わなくてはなりませんでした。
相手は1人少ないわけですから、日本にとっては非常に有利な状況です。
ギリシャ人だったら誰もが「よし! 相手は少ないから試合をコントロールしやすくなった」と思うような展開です。
しかし、私の友人たちが話していたのは「日本は戸惑っているように見えた」ということでした。
ワールドカップという大舞台。
しかも大切な1戦目ということで、ほかのチーム同様、日本も綿密に作戦を立てていたと思います。
もちろんそれは、11人対11人の試合を想定しての作戦だったはずです。
でも、その状況は試合開始後すぐに崩れてしまいました。
状況が違いますから、用意していた作戦どおりにはできない。
しかも相手は1人少ない状況ですから、普段と違うプレーをしてくる。
そのような想定外の状況の中で日本は、自分たちのペースを取り戻すまでに時間がかかった。
それを私の友人たちは「有利なはずの日本が戸惑ってしまった」と表現したのだと思います。
猛烈な暑さは
行動パターンを変えてみるチャンス
予定どおりに物事が進まない中で生活をするのは、なかなか大変です。
一定のペースを保つことができれば、無駄なエネルギーを使わないで済むことも確かだと思います。
ですが、たまには生活のペースを変えてみるのもいいのではないかと思います。
それによって、急な状況の変化にも対応できるようになるし、また普段とは異なる視点から物事をみるよいきっかけにもなります。
日本の強みは、よくオーガナイズされ、規律を持って行動することができる点だと思います。
でも、たまにはギリシャの生活のように、次に何が起こるかわからないという中で生活してみてはどうでしょうか?
もちろん疲れることもありますが、意外と楽しいものですよ!
日本の強烈な夏の暑さは、行動パターンを変える理由にもってこいかもしれません。
普段のペースを保ちつつも、何か小さな変化を入れてみるのもいいかもしれませんね。
でも、無理はせず、くれぐれもお体にはお気をつけください!
こちらは 気象庁の警報どうりの夏日、外にでただけでクラっと眩暈を感じます。
お互いに 健康には気をつけていきましょうね。