ヤマト「引っ越し過大請求」
に見る低いモラル
「組織ぐるみ」の不正も発覚、風土改革が急務
2018/09/18 東洋経済
木皮 透庸 : 東洋経済 記者
「全てのグループ会社において内部統制を含め、経営のあり方を見直していきます」
9月6日、ヤマトグループの社内サイトにヤマトホールディングス(HD)の山内雅喜社長のメッセージが掲載された。
傘下のヤマトホームコンビニエンス(YHC)の過大請求問題を受けたもので、信頼回復に全社一丸となり取り組む必要性を訴えた。
過大請求の根因は「商品設計」
ヤマトHDは8月末、この問題で、社外の弁護士らで構成される調査委員会の報告書を公表した。
過大請求額は総額約17億円。
そのうち約16%が悪意を持って見積額を上乗せしていたことや、一部では組織ぐるみの不正があったことも明らかになった。
調査委員会は「YHCは全社的に倫理意識が欠如していた」と厳しく指摘。
山内社長は「顧客の信頼を裏切り、深くお詫び申し上げる」と陳謝した。
YHCは7月の問題発覚後、法人向けサービスの受注をやめ、9月からは個人向けも休止。
最繁忙期の来春までの再開を目指している。
YHCの業績は今回の問題で6期ぶりに営業赤字となる見通しだ。
調査委員会は過大請求の根本原因として「商品設計の不備」を挙げる。
YHCの引っ越しサービスは、家財算出表に基づいて家財量をポイント化し、実際に運んだ量に応じ金額を修正して、請求する仕組みだ。
ほぼ全支店で過大請求
報告書によると、「運用が非常に煩雑で困難」
「マニュアルでは見積もり内容の修正をどのタイミングでどの方法ですべきか示されていなかった」という。
「見積もりの修正をしないことが当たり前になっていた」(ヤマトHDの大谷友樹常務)。
結果的に全国128拠点のうち、123カ所で過大請求が行われていた。
内部管理体制にも欠落があった
採算性についても商品開発段階で十分に考慮されてはいなかった。
YHCのサービスは家財量のポイントを料金の算出基準としているため、繁閑の差に合わせた見積もりが困難だった。
その中で繁忙期には割引率の高い法人案件が多いこともあり、採算確保のため、上乗せ見積もりが行われていた。
実際に中国統括支店傘下の支店長は「2トンだったら、3トンで見積もれよ」といった指示を出していた。
ある競合幹部はYHCの料金について「以前から高いと思っていた。引っ越しに力を入れている印象はなかった」と指摘する。
山内社長は「競争環境や人件費などが変化する中、価格設定の見直しができていなかった」と反省の弁を述べた。
ただ、問題は商品設計だけではない。
内部管理体制にも欠落があった。
過大請求問題を外部告発した元高知支店長の槙本元氏は「法人契約を全社的に管理・監督する本社組織が2012年になくなり、チェック機能が利かなくなった」と指摘する。
本社は商品設計を行うが、サービスの運用は現場に近い各統括支店以下に権限を委譲した。
その結果、「各支店が好き勝手にやるようになった」(槙本氏)。
高知支店はある法人顧客から今年4〜5月に121件の引っ越しを受注したが、119件で組織ぐるみの過大請求を行っていたと認定された。
高知支店を統括する立場にある四国統括支店長も黙認していた。
統括支店は全国に11あるが、東北、東京、関西、九州の各統括支店でも組織的な不正と見なせる水増しが確認された。
「グループの最底辺」と言われたYHC
YHCの引っ越しサービスは、宅配便の路線網活用を前提に法人向け長距離引っ越しをターゲットとして開発された。
槙本氏は、ヤマト運輸頼みの営業体制にも問題があったと指摘する。
「ヤマト運輸に営業力があるから、努力しなくてもいい。
受注は宅配便の顧客で取れるところから取ろう」。
YHCの元経営陣にはそんなことを言ってはばからない社長もいたという。
後ろ向きなお詫び行脚
過大請求を行った企業へのYHCのお詫び行脚は今も続いている。
謝罪にはヤマト運輸の支店長クラスが同行しているようだ。
引っ越しと宅配便で法人顧客の基盤が重なっているため、宅配便の顧客離れを防ぐことが目的だろう。
ただ、「お詫びへの同行も上から下に押し付ける形で、もはやお詫びの内容や顧客の反応に興味はなく、何件行ったかということに力点が置かれている」(ヤマト運輸社員)。
別のヤマト運輸社員が閉口するのは、今回の問題での役員に対する処分の甘さだ。
一番重くてもYHCの前の社長2人の降格処分で、ほかは減給や役員報酬の自主返納にとどまる。
「グループの最底辺」と言われるYHCの低い地位とも無縁ではなさそうだ。
YHCの売り上げはグループの3%ほどにすぎず、ヤマトHDからの監視の目も行き届いていなかった。
分社化で設立されたYHCは社員の待遇は低く、グループ他社との人事交流はほぼなかった。
不正拡大を招いた企業風土の問題は根深い。
山内社長は全社の総点検を進めるとするが、実効性のある対策が取れるのか。
グループ79社で社員21万5000人にまで膨れ上がった巨大物流企業は岐路に立たされている。