加藤浩次が『スッキリ』で
東京五輪ボランティア批判に
「外野がウダウダ言うな」…
“五輪無罪”同調圧力の典型
2018.09.23 LITERA編集部
9月26日から東京オリンピック・パラリンピックにおける大会ボランティアの募集がいよいよ始まる。
ボランティアに関しては募集要項の案が出た時点で
「10日以上かつ1日8時間以上という拘束時間」
「交通費や宿泊費すら出ない」
「医療従事者や通訳など専門性の高い仕事までボランティアの枠内に含まれている」といった数々の問題を指摘されていたが、結局是正されることになったのは交通費の問題ぐらいで、ほぼそのまま強引に押し通されるかたちとなった。
しかし、改善された交通費も1日あたり一律1000円しか支給されないため、これではとても足りない。
往復の電車賃の一部(もしくは大半)を自己負担しなくてはならないボランティア参加者は続出することだろう。
そんななか、9月14日放送『スッキリ』(日本テレビ)での加藤浩次の発言が一部で話題となっている。
この日の『スッキリ』では、「東京五輪ボランティア無償は問題ある? ない?」と題したコーナーが放送された。
この企画は、ボランティアをめぐる賛否の議論をVTRにて紹介したうえで、スタジオにいる出演者が各々「賛成」と「反対」に分かれてコメントを言うという構成で放送されていたが、その討論のなかで「問題ない」派の加藤浩次は、東京オリンピックのボランティアに異論を唱える世間に対し、「外野がウダウダ言ってんじゃねえよ」と激高したのだ。
自身の発言の番になった加藤はまず、「議論する意味がないと思っています。
まず、募集かけて人数が足りないってなってないのよ。
募集まだかけてない時点で、『その契約の条項がおかしい、お金くれ』って、『じゃあ、お前やんな』と。
『いいよ』と。11万人集まればいいわけでしょ、そこで集まったら誰も文句ないじゃない」と怒りをあらわにしたうえで、このように語った。
「自分の経験になるかもしれない、各国の人と喋れるかもしれない、そして、自分のスキルを上げたいという気持ち、さらに、お祭りを盛り上げるひとつのパーツになって楽しみたいっていう、こういう気持ちがボランティアでしょうよ。
それで『お金くれ』っておかしいって」
加藤は「ボランティア=無償」という前提で論を進めているが、賃金の発生する「有償ボランティア」というかたちは一般的にいくらでもある。
なので、「『お金くれ』っておかしいって」という意見がおかしいのだが、加藤は続けて「本当に11万人まったく集まんなかったら、その議論は必要だと思う。
いまの時点でお金をあげるっていう、意味がわかんない。
まったく意味がわかんない。
ボランティアなんだもん。
やりたいって方が一生懸命やって」と語り、本当に切羽詰まったときにお金の話を考えればいいと提案した。
この男はなにを言っているのか。
人が集まるから金が不要とか、集まらなかったら考えろ、とかそういう次元の話ではない。
いま、批判されているのは、善意につけこんだ搾取構造なのだ。
しかし、加藤がさらにひどかったのはその後だった。
今年2月に行われた平昌オリンピックの会場で、日本から来たボランティアスタッフにも出会い、彼らは交通費や宿泊費も自費で来ていたと語りながら、このように叫んだのだ。
「それ以外の外野がウダウダ言ってんじゃねえよって思うな、俺は」
もはや呆れるしかない。
「外野がウダウダ言ってんじゃねえ」と言い出したら、ありとあらゆる社会問題に関する議論が成り立たなくなる。
曲がりなりにも『スッキリ』というワイドショーでキャスターをやっている人間が、こんな言葉を口にするとは……。
「徴兵」「学徒動員」を想起させる
文科省、スポーツ庁の各大学への通知
それにしても、普段は芸能人のスキャンダルや炎上騒動で散々外野から辛辣なことを言っている加藤が、なぜこんな暴論をはいたのか。
その背景には、明らかに「オリンピック開催に関して文句を言う人間は非国民」
「オリンピックのためなら市民生活を犠牲にすることも許される」といった、いわゆる「オリンピック無罪」の考えがある。
事実、オリンピックのボランティアをめぐっては、すでに現段階から加藤の言う「気持ちがボランティアでしょうよ」「やりたいって方が一生懸命やって」の範囲を大きく越え、むしろ、「徴兵」「学徒動員」とでも言うべき状況になりつつある。
まず、文科省とスポーツ庁が全国の大学と高等専門学校に対して、学生を東京オリンピックのボランティアに参加させるため、大会期間中は授業や試験をやらないよう通知を出した。
東京オリンピックは7月24日から8月9日にかけて行われ、パラリンピックは8月25日から9月6日まで行われる予定。
通常であればこの時期は試験期間と重なる。
そこで文科省は、すべての大学、高専に、授業や試験がこの大会期間と重ならないよう、対応を促した。
実際、NHKの調べによると、都内にある大学119校のうち79校は、生徒のボランティア参加を促すため、該当期間に授業や試験などを行わない予定であるという。
また、ボランティアへの参加を単位として認める大学も出てきた。
すでに決定をくだしている学校はわずか4校だが、検討している大学は55校にものぼっている。
『スッキリ』のなかで加藤は、ボランティアへの参加を「気持ち」と表現した。
しかし、大学生にとって単位が発生するということは正規の授業に準じるものであり、これでは強制とたいして変わらない。
企業にも東京五輪組織委から
ボランティア動員のノルマが
また、「オリンピックのため」の滅私奉公が呼びかけられているのは学生だけではない。
会社員もだ。
東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会施設部が、
「大会期間中は休暇をとってほしい」
「ボランティア休暇制度をつくってほしい」などと要望しているが、スポンサー企業はさらに“ノルマ”を課せられるようだ。
2018年9月12日付「日刊ゲンダイDIGITAL」によれば、東京2020オリンピックゴールドパートナーの富士通は、東京五輪組織委員会から300人のノルマを課せられたという。
また、同じゴールドパートナーの三井不動産にも300人のノルマが課せられていると報じられている。
「日刊ゲンダイ」の記事では、富士通の広報担当に話を聞いており、担当者は「300人の社員をボランティアとして送るだけでも、業務のバランスを考えたり、周囲の協力を得なければならない状況です。
これ以上の人数がボランティアに割かれるとなると業務上の支障が出かねません」と証言している。
しかも、富士通では、ボランティア参加者は積み立て休暇や有休を利用することになるという。
加藤は「『お金くれ』っておかしいって」と言うが、はっきり言って、この状況のほうがよほどおかしいだろう。
昨年夏、東京オリンピック・パラリンピックの開会式および閉会式の基本プランを作成する「4式典総合プランニングチーム」の一員である椎名林檎が「国民全員が組織委員会」なる言葉を口にし多くの批判を浴びた。
しかし、オリンピックに異を唱える者や、大会のための滅私奉公に文句を言う人間を「非国民」のように扱う風潮は、さらに加速している。
このように同調圧力をまん延させ、全体主義的な社会にしてまで、東京オリンピックは開催しなければならないものなのだろうか。それこそ「おかしい」だろう。