新基準導入で日本人の半数が
「高血圧患者」になる時代
2018年10月18日 NEWSポストセブン
上が135、下が85。
──健康診断のためかかりつけ医を訪れたとある中高年男性は、少し高めだがいつもと変わらない血圧に安堵した。
だが医者が口にしたのは想定外の言葉だった。
「135ですか……。降圧剤を飲みましょうか」
これまで「140に届かなければ心配ないですよ」と言われていたのに、なぜいきなり……。
驚いたが、担当医の指示だから仕方ない。
その日から降圧剤を飲み続けることとなった──。
半年後にはこのような「高血圧にされる人」が急増するかもしれない。
今年9月に開催された日本高血圧学会の総会で、来年4月に改訂される高血圧治療ガイドラインの方針案が示された。
これまで高血圧の治療を受ける患者が目標とする血圧は、75歳未満の成人で「140/90(75歳以上だと150/90)」だった。
だが今回の方針案では、「130/80(同140/90)」未満に下げることとなったのだ。
「今後、日本医学会や日本内科学会などが草案を査読し、パブリックコメントを集めたうえで2019年春をめどに改訂ガイドラインを公表します」(日本高血圧学会事務局)
背景にあるのは、昨年11月、米国心臓病学会(ACC)が「140/90」だった高血圧の診断基準を「130/80」に引き下げると発表したことだ。
米国ではこの基準変更を受けて、推計7220万人だった高血圧患者が一夜にして1億330万人に激増した。
診断基準とは「あなたは高血圧であり、治療が必要です」と医師が診断するラインを指す。
アメリカではこれを「130/80」に引き下げたため、高血圧患者が一気に増加したのだ。
この流れを受けた日本では、前述した9月の総会で日本高血圧学会は現在の「140/90」という診断基準を変更しないことを表明する一方、治療目標を引き下げることになった。
これは何を意味するのか。診断基準についての研究を行なう東海大学名誉教授の大櫛陽一・大櫛医学情報研究所所長が解説する。
「診断基準をいきなり変えると治療現場に混乱が生まれかねないので、治療目標だけを変えるのでしょう。
治療目標はあくまで“目標”で、必ずしも厳守すべきものではないはずですが、現場の医師たちはそうは考えていません。
患者のリスクを少しでも減らすために治療目標まで厳格に下げようとするケースが多い。
今回の変更によって、例えば上が135の74歳以下の患者の場合、基準では140未満だから『高血圧』ではないはずが、『目標の130まで下げましょう』といわれる可能性が高くなります」
高血圧患者に対する治療が厳しくなる中で、「ゆくゆくは診断基準の改訂に繋がるかもしれない」(高血圧の予防治療を専門とする新潟大学名誉教授の岡田正彦医師)という指摘もある。
現在、日本の高血圧患者(140〜/90〜)は4300万人と推計されている。
滋賀医科大学と厚労省がまとめた『NIPPON DATA2010』からその内訳をみると、
血圧「140〜159/90〜99」では60〜69歳の37.2%、70〜79歳の41.0%、80歳以上の42.9%。
血圧「160〜179/100〜109」だと60〜69歳の13.1%、70〜79歳の18.0%、80歳以上の13.3%。
血圧「180以上/110以上」で60〜69歳は5.4%、70〜79歳の4.0%、80歳以上の5.1%を占めている。
現在の基準では高血圧に分類されない、血圧が「130〜139/80〜89」の人は、60〜69歳の24.6%、70〜79歳の20.9%、80歳以上では23.5%を占め、2000万人いるとされている。
だが、もし将来的に「診断基準」まで変更された場合、その人数は6300万人となる。
実に日本人の半数が“高血圧患者”となってしまう。
60歳以上に限れば8割以上が「治療が必要」と見なされることになる。
※週刊ポスト2018年10月26日号