睡眠時の無呼吸を放置することに潜む危険性
記憶力障害やうつ病に発展する研究結果も
2019/02/18 「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部
文:松丸さとみ
当記事は「ニューズウィーク日本版」
(CCCメディアハウス)からの転載記事です。
オーストラリアの研究チームが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)を患っていると記憶力に問題が生じ、うつ病に発展する危険性があると発表した。
睡眠時の無呼吸、記憶障害とうつに
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、寝ている間に息が止まるなどして呼吸が阻害される症状だ。
なかでも肥満などが原因で上気道が閉塞されて起こるものを閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)といい、世界で9億3600万人がこの症状を患っていると言われている。
オーストラリアのメルボルンにあるRMIT大学はこのほど、OSAの症状があるものの治療を受けたことがない人が、どの程度の記憶障害を抱えているかを調査。
OSAを患っていると記憶力に問題が生じ、うつ病に発展する危険性があると発表した。
今回調査を行なったのは、RMIT大学のメリンダ・ジャクソン博士率いるチームだ。
これまで、OSAの人は記憶力に問題がある場合が多く、うつ病になる割合も高いと指摘されてきた。
2014年に発表された調査では、OSAの人の46%にうつの症状が見られた。
ジャクソン博士は、うつと記憶には深い関係があると説明。
人生で起こったことの詳細をあまり覚えていない(自伝的記憶が乏しい)場合、なかなか治らないうつ病へと発展するリスクがあるとされているため、これを足場として今回の調査を行なったと述べている。
なお「自伝的記憶」とは、個人の人生における経験に関する記憶を意味する。
灰白質が著しく失われている
調査では、OSAを患っているが治療していない成人44人のグループと、健康的な成人44人からなるコントロール・グループを比較した。
実験参加者には、子供時代、青年期、そして現在とそれぞれの時期にあったさまざまな出来事を思い出してもらった(自伝的記憶)。
OSAの人は人生の細かい点を思い出せない
その結果、OSAを患っている人の記憶は、そうでない人の記憶と比べ著しく概括的(つまり詳細まで覚えていない)ということが分かった。
記憶が概括的すぎて詳細まで覚えてない割合は、コントロール・グループが18.9%だったのに対し、OSA患者のグループは52.3%だった。
調査チームはまた、自伝的な意味記憶とエピソード記憶をそれぞれどれだけ思い出せるかも調査した。
意味記憶とは、事実や概念に関する記憶のことで、ここでいう自伝的な意味記憶とは例えば学校の先生の名前などが該当する。
一方でエピソード記憶とは、実際の出来事に関する記憶で、例えば高校生活初日の思い出などだ。
OSAを患っている人は、意味記憶をなかなか思い出せなかったものの、エピソード記憶は維持できていた。
調査チームによると、自伝的な意味記憶を安定させるには良質な睡眠が不可欠であるため、OSAの人が意味記憶を維持できない原因は、呼吸で阻害されることにより睡眠が断片的になっていることが原因と考えられるという。
さらに、OSAとコントロールの両グループで、年齢が高いほど記憶が概括的(あいまい)であり、また、意味記憶が乏しいほどうつ病が強い、という傾向がみられたという。
ジャクソン博士は、OSAを治療しないと記憶処理にどのような影響が出るかについては「さらなる研究が必要」としながらも、「睡眠時無呼吸症候群の人の脳をスキャンすると、灰白質が著しく失われているのが分かる」と説明。
失われた部分は、自伝的記憶のネットワークと関わっている部分だという。
このネットワークがうまく機能しないことが記憶障害とうつの両方に関係しているのか、今後さらに調べる必要があると述べた。
ジャクソン博士は一方で、CPAP(持続陽圧呼吸療法)と呼ばれる機械を使ったOSAの治療法が、OSAによる認知機能障害を改善することが示されていると指摘。
次の研究ステップとして、OSAを治療することで、記憶障害の改善のみならず、忘れてしまった記憶を取り戻すことも可能か否かを見極めたい、と語っている。