不審電話を切れない人はなぜ切れないのか
2019年05月03日 PRESIDENT Online
▼老親がオレオレ詐欺被害
■「費用もかからないし、人助けになるなら」と名義貸し
オレオレ詐欺(ニセ電話詐欺)の手口には「溺れる者は藁をもつかむ」状態に追い込むというセオリーがあります。
最近増えている新たな手口が人の親切心につけこむ詐欺。
佐々木道子さん(仮名・72歳)の家にある日、「介護付き有料老人ホームのパンフレットと入居権利申込書」が届きました。その数日後、Aという会社から電話が。
「パンフレットにある老人ホームへの入居希望者が数名いるが、法人からは申し込めないので、入居権利申込書を持っているあなたに代わりに申し込んでもらい、その権利を買い取らせてほしい」
道子さんが「お金がない」と断ると、「介護が必要なのに入れない人がたくさんいるんです。
費用は当社で全額負担するので、人助けだと思って名義だけ貸してほしい」と担当者。
道子さんは「費用もかからないし、人助けになるなら」と、名義貸しを了承してしまいました。
■「犯罪行為になります」という脅しの電話が…
すると数日後、その老人ホームから「入居権は個人にしか販売していないのに、入金が会社名義なのはおかしい。
権利をA社に譲ったならインサイダー取引で犯罪行為になります」という脅しの電話がかかってきたのです。
慌ててA社に問い合わせると「間違って当社名義で振り込んでしまったので、老人ホームと交渉中です。
申し訳ありません」とのこと。
もちろん、すべて真っ赤なウソ。
そして数日後、A社から悪魔のような提案が。
「幸い、老人ホーム側は示談金を払えば、公にしないと言っています。
もし公になってあなたが逮捕されたりしたら大変ですから、示談金の半分は当社が負担させていただきます」。
窮地に立たされた道子さんは「半分もってもらえるのなら」と500万円を支払ってしまったのです。
■頭脳明晰、自信過剰な高齢者ほど騙されやすい
「こんなウソに騙されるなんて」と思うかもしれませんね。
でも、人はパニックになると、様々な方法を検討するのではなく、目の前にある方法で何とか早く危機を脱しようとします。
心理学ではこの特性を「ヒューリスティック」といいます。
犯人はこれを利用し、まずは溺れさせ、藁を差し伸べる、つまりパニック寸前まで追い込み、カネさえ払えば救われるというストーリーに仕立てているわけです。
注意したいのは、頭脳明晰、自信過剰な高齢者ほど騙されやすいこと。
多くのトラブルを乗り越えてきた経験があるため、「自分だけは大丈夫」と過信しやすいからです。
これまでの人生経験に頼って深く考えずにラクをしようとするのも騙されやすい要因です。
一番の対策は、親とニセ電話詐欺について騙す側の視点からよく話し合い、自分たちはどんなリスクを抱えて暮らしているかを一緒に考えてみることです。
肝心なのは、カネを要求されたときは相手が誰であろうと疑うことです。
打つべき一手:カネを要求されたら、相手が誰であろうと疑え! -
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西田公昭 立正大学心理学部教授
1960年生まれ。84年関西大学社会学部卒業。
詐欺・悪徳商法の心理学研究の第一人者として新聞、テレビなどのマスメディアでも活躍。
著書に『マンガでわかる!高齢者詐欺対策マニュアル』ほか。
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