高齢者に多いうつ
自然治癒は不可能、放置すれば悪化の一途
2019年06月03日 NEWSポストセブン
老親のもの忘れが気になると、真っ先に疑うのは認知症だろう。
今や認知症は大きな関心事で、情報も数多く発信されるようになった。
そんななかで見過ごされやすいのが“老人性うつ”。
脳内の神経伝達物質が減ることで起こる脳の病気だ。
治療で治すことができるのに、認知症や老化と思われて治療に至らず、悪化するケースが多いと、長年、高齢者の精神科医療に携わる和田秀樹さんが警鐘を鳴らす。
◆認知症や老化に間違われやすい“うつ”の症状
「高齢者のうつでいちばん問題となるのは、必ずしも典型的な症状だけが、わかりやすく現れるわけではないことです」と、和田さん。
一般的にうつは、悲観的になり、意欲が低下し、不眠になって心身ともにつらくなる。
高齢者の場合、これら典型的な症状以外に、一見うつとは無関係のような症状が出ることも多いという。
特に多いのは記憶力の低下。
年齢的に認知症と間違われやすいのだ。
「認知症は高齢者に多い病気ですが、70代では、うつが認知症と同じくらいか、若干多いくらいの頻度です。
それなのに70代でもの忘れがあると、今時はみんな認知症だと思ってしまう。
着替えや入浴を億劫がり、身なりにも気を使わなくなったりもするので、ますます認知症だと思い込むのです」
また食欲不振や不眠はどの年代のうつにも多い症状だが、高齢者の場合はうつと気づかれにくいという。
いずれも高齢者には、年相応の症状としてよくありがちだからだ。
「痛みに敏感になり、腰痛や頭痛、息苦しいなどと訴えることもあります。
整形外科や内科で検査を受けても、異常は見つからず、結局、見過ごされる。
ところが、幸運にもうつが判明して治療薬をのむと、痛みなどがうそのように治るといったケースも少なくありません」
このほかに“イライラして多弁になる”“不安でソワソワする”「病気に違いない(心気妄想)、人に迷惑をかけている(罪業妄想)、お金がない(貧困妄想)」といった“非現実的な妄想”なども老人性うつには多いという。
◆うちは治療できる…が放置すれば認知症リスクも
脳に原因があり、症状もよく似たうつと認知症だが、根本的にはまったく違う病気だ。
「うつの主な原因は、セロトニンと呼ばれる脳内の神経伝達物質が減ること。
悲しい出来事やストレスなど、心理的要因がきっかけになることは多いのですが、きっかけがなくても発症します」
セロトニンは、快楽・喜びに関係するドーパミン、覚醒や意欲、記憶に関係するノルアドレナリンなどをコントロールして、精神を安定させる働きがある。
別名“幸せホルモン”などとも呼ばれている。
「セロトニンは、高齢になるほど減る傾向にあります。
また高齢者は、子供の独立、配偶者や親しい人との死別など、インパクトの強いストレスや悲しみと向き合う機会も多い。
病気にまで至るか、どんな症状が際立つかは個人差もありますが、基本的に高齢者はうつになりやすいのです」
一方、認知症も高齢になるほど増えていく病気だが、脳の中に原因物質がたまって脳細胞が萎縮、死滅するなど、不可逆的な変化によるもの。
残念ながら今のところ完治に至る治療法はない。
「うつは認知症と違って脳細胞自体が壊れるわけではないので、減ったセロトニンを増やす薬物療法がよく効きます。つまりきちんと治療をすればよくなるのです」
しかし前述のような理由から気づかず、受診に至らず放置されることも多いという。
「高齢者の場合、自然治癒はまず望めません。放置すれば悪化の一途です。
脳の神経伝達がうまくいかないので、認知機能も低下します。
多くの調査から、うつが認知症のリスクを高めることも明らかになっています」
さらに厄介なのは、悪循環に陥りやすいことだ。
「うつになると基本的に悲観的になりますが、悲観するとよけいにセロトニンの分泌が悪くなるのです。
また不眠になったり、食欲が落ちて栄養不足になったりすると、セロトニンが作られにくくなる。
こうして悪化すると、抜け出すのが難しくなります。
実際にうつの人の話を聞いたところでは、高熱にうなされる時のようだと言います。
気力も食欲もなく、あちこち不調でだるい。
夜中に目が覚めていつも不安。
それがエンドレスで続く。
『生きているのが嫌になる』と。最悪の場合は、自殺にも至ります。
本当につらいだろうと思う。
うつこそ、早期発見、早期治療が大切なのです」
ちなみにうつは女性の方がなりやすいが、自殺者は男性の方が多い。
今の高齢者は「迷惑をかけている」という思い込みからうつになるケースも多く、独居より、家族と同居する高齢者の方が自殺率が高いという。
※女性セブン2019年6月13日号