最終盤の国会「解散風」に踊らされるな
京都新聞 2019年06月09日
通常国会は会期末の26日が迫り、最終盤に差し掛かった。
「解散風」が吹く中、粛々と法案審議が進み、与野党対決の場面は乏しい。
夏の参院選に向け、与野党ともに真摯(しんし)な論戦を通じて政治課題を浮き彫りにする好機なのに、これでは国会自ら存在意義を否定しているようだ。
終盤国会は例年なら重要法案の採決を巡り、内閣不信任決議案提出など与野党が激しくぶつかり合うことが珍しくない。 だが今国会は参院選を控え、政府・与党が法案の提出本数を絞り込んだ。
与野党が対立する法案を避け、無難に審議を乗り切るためだ。
加えて安倍晋三首相周辺を源に衆院の「解散風」が吹き始め、衆参同日選となるかどうかが気掛かりとみえる。
憲法改正に絡む国民投票法改正案など一部を除き、私たちの暮らしに影響を与える法案も次々と成立した。
対決案件とみられた幼児教育・保育を無償化する子ども・子育て支援法も保育の質の確保や保育士不足などの懸念をよそに改正された。
国会の役割をきちんと果たしているのか、と案じられる。
ここへ来て、与党から衆参同日選につながる会期延長論が持ち上がっている。
野党を揺さぶるのが狙いかもしれないが、党利党略というほかない。
何より国会論戦の低調ぶりを際立たせているのは、衆参両院いずれも予算委員会が長らく開かれていないためだ。
予算委は、時々の政治課題をチェックする場であり、首相や担当閣僚が出席して与野党が激しい攻防を繰り広げる。
衆院は予算案可決の3月1日が最後、参院も同27日以降開かれず、極めて異例といえる。
野党が首相が出席する予算委集中審議の開催を再三求めても、平穏なまま国会を終えて参院選に臨みたい与党に応じる気配はない。
野党に政権追及の見せ場を作らせず、閣僚らの失言などによるイメージ悪化を避けたいとの意図が透ける。
野党側から「政府、与党の職場放棄だ」と批判されても致し方ない。
党首討論も昨年6月以降、開かれてない。
内政、外交とも課題が山積している。
経済情勢の判断や消費税対応、北朝鮮の非核化・拉致や北方領土問題など、国民が詳しく知りたい案件は数多い。
とりわけ先の日米首脳会談でトランプ大統領が言及した貿易協定交渉の「8月決着」の真意は何か。
参院選での争点化を避けたい首相と「密約」が交わされたのではとの指摘もあり、事実関係の説明が要る。
失言で更迭された桜田義孝前五輪相や、「忖度(そんたく)」発言の塚田一郎元国土交通副大臣の任命責任をどう考えるのか。
森友・加計問題の真相解明も進まない。
年初に浮上した不正統計問題も同様だ。
数の力で劣る野党の対抗手段は限られるが、このままでは何が問題なのか国民にはみえない。
参院選が近い。終盤国会の与野党の攻防こそが有権者の判断を大きく左右する。
「解散風」に浮き足立つことなく、緊張感を持って審議を尽くしてもらいたい
。国会論戦が中途半端に終われば、さらに政治不信は増幅するに違いない。