2019年06月15日

エアコンを買えない生活保護受給者の猛暑サバイバル、今年は大丈夫か

エアコンを買えない生活保護受給者の猛暑サバイバル、今年は大丈夫か
2019.6.14 ダイヤモンドonlin

みわよしこ:フリーランス・ライター

2018年6月に認められた 「保護費でエアコン」のその後
 生活保護で暮らす当事者たちと周辺の人々にとって、夏は文字通り「サバイバル」の季節だ。
酷暑の夏となった2018年7月には、札幌市で60代の女性が熱中症で死亡した。
女性の部屋には冷房装置があったものの、電気料金滞納により電力供給が停止されており、使用されていなかった。
その日、札幌市の最高気温は31度に達していた。

 2018年は酷暑の見通しがあったため、厚労省は6月27日、生活保護世帯に対し、保護費から冷房器具の設置を認める通知を発行していた。
この通知は、さまざまな意味で画期的であった。
 まず、暖房器具と冷房器具の併給が認められ、冷涼なはずの地域の酷暑・温暖なはずの地域の厳寒にも対応できるようになったこと。
また、対象は「熱中症予防が特に必要とされる者」となっているが、年齢や状態による区分はなく、福祉事務所の総合的な勘案と判断を求めていることだ。

 とはいえ対象となるのは、2018年4月1日以降に新たに生活保護で暮らし始めたり、生活保護のもとで転居したりするなど、「2018年度以降に、生活保護のもとで新生活を始めた」と考えられる世帯のみだ。

 エアコンの本体価格の上限は5万円となっている。
この価格で実際に購入できるエアコンと在庫を調べてみたところ、機種はおおむね2013年から2017年のモデルだった。
実際の使用に関して、大きな問題はないであろう。
 しかしながら、残っている商品が極めて少ない。
また、本体費用に加えて設置費用は別途認められるものの、電気料金は考慮されない。
エアコンがあっても使用できないのなら、熱中症で死亡した札幌市の女性と同じシチュエーションだ。

 2019年の夏、生活保護世帯とエアコンに関して「令和」効果の風は吹くだろうか。
対象者は誰なのか
昨夏の猛暑で「出遅れた」人はNG?

 最も気になるのは、昨年4月1日以降に生活保護のもとで新生活を始めたものの、昨年はエアコン設置費用の申請をしなかった場合の取り扱いだ。
昨年の夏は、酷暑のあまり気力も体力も失い、制度を知らせても「申請するために動くなんて無理」という当事者が数名いた。
 当該の厚労省通知には、「当該被保護世帯に属する被保護者に熱中症予防が特に必要とされる者がいる場合であって、それ以降、初めて到来する熱中症予防が必要となる時期を迎えるに当たり、最低生活に直接必要な冷房器具の持ち合わせがない場合」という記述がある。

「熱中症予防が特に必要とされる者」は別途、高齢者・障害者・傷病者・難病患者・子どもなどのように列挙されている。「健常者はどうでもいいのか」とツッコミたくはなるが、考え方は理解できる。

 では、「初めて到来する熱中症予防が必要となる時期」とは何なのか。
常識的に考えれば、「生活保護のもとで新生活を開始してから初めての夏」となり、2回目の夏は対象にならないことになるが、そのような解釈でいいのだろうか。

厚労省の社会・援護局保護課に、直接問い合わせて確認した。
 回答は、「生活保護のもとで新生活を開始してから初めての夏」であった。
たとえば、2018年4月に生活保護での新生活を関東で開始した場合、初めての夏が訪れる2018年7月には、いまだ貯蓄の余地がない。
そこで、家具什器費としてのエアコン購入費用が認められる。
この年の熱中症シーズンが終わるまでに申請しなかった場合、翌年夏には新生活開始から1年以上が経過しており、やりくりによる貯蓄の余地があるはずなので、この通知の対象とはならない。
 この場合には、社会福祉協議会(社協)から生活福祉資金の貸付によってエアコンを購入する方法が残されているとはいえ、返済は保護費からの「天引き」で行う原則なので、「健康で文化的な最低限度」が損なわれるという問題がある。
エアコンを稼働させるには、電気料金も必要になる。

 ともあれ現在、厚労省の画期的な通知が多数の人々を救う可能性は、あまり期待できない。
では、生活保護で暮らす人々を含め、これから今年の日本の夏を迎える人々は、熱中症をどの程度恐れればよいのだろうか。

今夏の暑さは「平年並み」 しかし安心はできない
 今年は5月に、夏の暑さの思いやられる高気温の日があった。
しかし気象庁によれば、2019年の夏の暑さは「平年並み」と予測されている。
 気象庁の予報で用いられる「平年並み」は、過去30年間の観測値から求められる。

気温の場合、低い方から高い方へと並べて3分の1ずつに分割し、真ん中の3分の1に当たる場合に「気温は平年並み」となる。
 気象庁が今年5月24日に発表した「向こう3ヵ月の天候の見通し」によれば、6月から8月の平均気温は、沖縄・奄美で「平年並みか高い」、その他全国では「ほぼ平年並み」となっている。
もともと夏の厳しい沖縄・奄美での気温の「高い」見込みは、心配になる。

「ほぼ平年並み」の他地域も、安心するわけには行かない。
「ほぼ平年並み」は、あくまで「平均」気温の話だからだ。
現在、8月の東京の平年気温は、最高31度・最低24度となっている。
8月に最高気温が38度の日と最低気温が17度の日が1日ずつある場合、他の日が「平年並み」ならば、8月の「平均」気温は変わらない。

「6月と8月は気温が若干低めだったけれど、7月は酷暑」というパターンの場合も、3ヵ月の「平均」気温は「平年並み」になり得る。

 気候は、世界中で不安定になっている。
平均がどうあれ、何が起こるかを正確に予測することは難しい。
ひと夏にたった1日だけ、人間の生存を脅かす酷暑の日があれば、体力の乏しい人々は簡単に生命を奪われたり、健康に深いダメージを受けたりする。
救急車出動1回と入院1週間の費用は、少なくともエアコン数台分に達するはずだ。

私には、「エアコンと電気代で医療費を節約したほうが、厚労省にとって、さらに財務省にとって“トク”なのでは?」と思えてならない。

 エアコンの有無が生存に関わるのは、誰に対しても同じことだ。
昨年夏の酷暑を受けて、東京都荒川区と福島県相馬市は独自に、低所得世帯を対象としたエアコン設置助成を行った。
このような制度は、全国で恒久的に実施されてほしいところだ。

日本全国では、すでにエアコンの設置率は90%を超えている。
残る10%未満の世帯が対象なのだから、巨額の予算が必要になるわけではない。
 とはいえ、住宅は基本的に「国交省マター」だ。
生活保護の「住」の相当部分が「厚労省マター」となっている背景には多様な歴史的経緯があるのだが、人間の生存に適さない居住環境に対しては、エアコンや断熱性能を含めて国交省が「テコ入れ」するのが本来の姿であろう。
そうなるまでは、生活保護とその延長線上にある「厚労省マター」としての充実を期待するしかない。

ケースワーカーの 「知らないふり」は許されるのか
 生活保護とエアコンに関して、2018年6月に厚労省が発した通知は画期的だった。
しかし対象は、当初から「2018年4月1日以降に生活保護のもとで新生活を開始した世帯」に限定されていた。
それだけではなく、「ケースワーカーによるエアコン設置の妨害か」と勘ぐりたくなる事例もあった。

 その2018年、通知について知った当事者が勇気をふるって福祉事務所に申し出たところ、ケースワーカーの返事は「そんな制度はない」という一言だったという。
その後、厚労省は周知を図ったが、「エアコンが必要な事情の説明をさせない」という形で実質的に申請を拒まれたという事例もあった。
 2018年の夏がそのまま過ぎてしまうと、生活保護費でエアコンを設置する道は絶たれることになる。
社協の貸付の利用や個人のやりくりは、いつでも誰でも可能とは限らない。

残る“便法”は、多大なリスクを伴う「いったん生活保護を脱却して、再度申請する」といった方法か、実行が事実上不可能であることも多い「転居する」といった方法だ。

 生活保護世帯の大人たちは、高齢者や障害者や傷病者であったりする。
そこに学齢期の子どもがいて暮らしと育ちと学びに配慮する必要があるのなら、さらに選択肢は少なくなる。
 いずれにしても、住まいの中で熱中症に倒れたり寒さに凍えたりする場面は、誰に対してもあってはならないはずだ。
生活保護世帯にだけ、特別な配慮が必要というわけではない。

生活保護を象徴として、人間として当然の「誰もが、健康で文化的な生活を送る」という願いを、改めて噛み締めよう。
posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☁| Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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