2019年06月21日

いじめや差別、なぜやめられない? 香山リカさんが挙げる3つの理由 「他人をいじめる人生」の結末は……

いじめや差別、なぜやめられない?
 香山リカさんが挙げる3つの理由 
「他人をいじめる人生」の結末は……
6/20(木) with news

 職場などで「自分だけが損している」とか、「私は努力しているのにこんなはずじゃなかった」と思うことはありませんか。
そんな気持ちが実はいじめや差別につながっている、と精神科医の香山リカさんは指摘します。
厳しい競争社会の中、だれもが加害者・被害者になる可能性があるというのです。
キーワードは「自己愛の傷つき」「否認」「確証バイアス」といった人間にもともと備わっている性質でした。

なぜいじめや差別はいけないのか
そもそも、なぜいじめや差別をしてはいけないのでしょうか。
香山さんは「人は人を殺さないというルールに厳密な論理も正確な理由もないはず。
それと同じように、差別やいじめも仕方ないと認めているといっしょに生きていることができないから、『とにかくそれはやめよう』と考えてここまで生き延びてきました」と著書「『いじめ』や『差別』をなくすためにできること」(ちくまプリマ−新書)で述べています。

 香山さんは、いじめや差別をしたり、「自分は関係ない」と思っていたりすると、「自分で自分の首を絞めることになる」と指摘します。
つまり、いつかは自分もいじめや差別を受けることになるかもしれないというのです。

 今年3月、ツイッターで差別的な書き込みをしたとして世田谷年金事務所(東京都)の所長が更迭されました。
日本年金機構が、所長のものと確認したアカウントには、特定の国会議員の名前を挙げるなどして、「国賊」「鬼畜」「非日本人」といった投稿を繰り返していました。

《精神科医の香山リカさんは、このアカウントから自分あてに、「反日」とリプライが来たことがあるという。
「年金事務所は様々な人のプライバシーを預かるところ。
これほどのヘイト発言を繰り返す差別主義者が所長をしていたことはショック。
公正に審査されていたのか、疑念を抱かざるを得ない」と話した。
――朝日新聞デジタル:ヘイト投稿、リプライ来た香山リカ氏「審査公正か疑念」》

 部落差別問題では、戦前に発行された地名リストを入手した男性が2016年に書籍として刊行してネット上に掲載。
被差別部落出身者らでつくる運動団体の部落解放同盟が「部落差別が助長される」として出版禁止やネット掲載禁止を求めて東京地裁に提訴しました。
部落差別について香山さんは「被差別部落出身ということでさげすまれたり排除されたりすることはどんなにつらいことか。そこが差別はいけないという大原則だったのにそれが通じなくなっている」と嘆きます。

「こんなはずじゃなかった」という気持ち
 それでは人間はなぜ、「自分は関係ない」と思ったり、いじめや差別をしたりしてしまうのでしょうか。
「多くの人が『自己愛の傷つき』という問題を抱えている」と香山さんは精神医学的な理由をあげます。
 香山さんによると、「自己愛」というのは「自分で自分のことを大切に思う」心の動きの一つです。
この自己愛が大きくなって自分が傷つくと「私はこんなはずじゃなかった」とか「私はもっと輝いていたはずだ」という気持ちが募るというのです。

《「自己愛」というのは、(中略)「自分で自分のことを大切に思う」という人間が生きていく上で基本の心の動きのひとつです。
(中略)その「自己愛の傷つき」の状態にある人たちは、「私はいつもバカにされている」「私には才能があるのに、まわりが理解してくれないからすべてが台なしになった」(中略)と思っています。
(中略)オーストリアのハインツ・コフートという精神分析学者は、「自己愛の傷つき」が起きたとき、人は「コントロール不能で予想外の怒り」を示すものだ、と述べました。
――香山リカ著「『いじめ』や『差別』をなくすためにできること」(ちくまプリマ−新書)》

 なぜ自己愛が傷ついてしまうのでしょうか。
香山さんによると、社会の競争が激しくなり、恵まれた立場の人たちほど「私はがんばった」「ものすごく努力した」と思い、他人に対して見る目が厳しくなっているといいます。
 そして、「こんなはずじゃなかった」という嫉妬心は、同じ会社の人にライバル意識を持って仕事をがんばるという方向ではなく、「こんなところに私が受けるべき特権を享受している人がいる」と思い込んで生活保護受給者といった社会的弱者を攻撃の対象にすると、香山さんは指摘します。

《「誰がひどいヘイトスピーチをしているか」についていくつかの調査があるのですが、「その人たちは決して貧困や無職ではない」という結果も出ています。
いちばん多いのは、「大きな都市の郊外に住む30代から40代の会社員」だそうです。
(中略)では、なぜその人たちは、自分は恵まれているにもかかわらず、外国人をバカにしたり、追い出そうとしたりするのか。
(中略)会社員など恵まれた立場の人たちほど、(中略)他人に対して見る目が厳しくなっているのです。
――香山リカ著「『いじめ』や『差別』をなくすためにできること」(ちくまプリマ−新書)》

恐怖や葛藤をみなかったことにして自分を守る
 深層心理学で「否認」という、恐怖や葛藤をみなかったことにして自分を守るメカニズムがあります。
香山さんによると、いじめや差別をする人にあてはめると、自分の不安や傷つきから自分を守っているというのです。
競争の中で生まれる不安に直面するのは勇気がいることなので、それから目をそらしたいというのが「否認」なのです。
 また、「否認」の心のメカニズムは、いじめや差別を受ける側や傍観者にも起こります。
これがいじめや差別の発見や解決を遅らせる原因になるというのです。

《私たちの心には、自分が認めたくないこと、認めるのはつらいことがあったときに、”見なかったふり”をする自動装置のようなものがついている(中略)この『打ち消す動き』のことを「否認」と呼びます。
この「否認」は、自分がいじめや差別の被害者のときも、加害者のときも、まわりで見ている人つまり傍観者のときも、同じように起きます。
そして、この「否認」には、そのいじめや差別の内容がひどければひどいほど起きやすくなる、という性質もあります。
たとえば、親からの虐待でからだにあざができたり骨折したりしている子どもが児童養護施設に保護されても、その子が「これは転んでできたケガなんだよ」と言い張ることがあります。
子どもが自分に暴力をふるう親をかばってそう言うときもありますが、「否認」のメカニズムが働いて本当にそう思い込んでいる場合もあるのです」
――香山リカ著「『いじめ』や『差別』をなくすためにできること」(ちくまプリマ−新書)》

他人をいじめる人生の結末  
「確証バイアス」とは自分の考えに沿う情報しか信じない心理です。
香山さんによると、一度いじめや差別を始めるとやめられなくなるのは「いったん『自分たちは正しい』『守られている』という思いを味わうと『確証バイアス』により、異論を受け入れられなくなるからだ」といいます。
自分がしているいじめや差別に根拠がなかったという事実を告げられても修正することができないのです。

《心理学でいう「確証バイアス」が働いて、自分のいったん信じたことを強化する情報しか取り入れなくなってしまうので。自分の気持ちにぴたっとはまるデマや陰謀論を聞くと、ほらやっぱりそうなんだ、と信じ込んでしまう。
――香山リカ対談集「ヒューマンライツ 人権をめぐる旅へ」(発行:ころから)》

 このように他人をいじめたり差別し続けたりするとどうなるのでしょうか。
香山さんは「他人を攻撃することで自分が満たされる錯覚を起こしてしまう」としたうえで「いじめたり差別したりすることでしか自分の安心感を得られない、自信を持てなくなってしまう。
いじめや差別に依存した、自分では何も解決できない、やりたいこともできない人生を送ることになる」と訴えます。
posted by 小だぬき at 14:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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