2019年06月29日

月またぎの入院は損!高額療養費制度「自己負担が増える」落とし穴

月またぎの入院は損!
高額療養費制度「自己負担が増える」落とし穴
2019.6.28 ダイヤモンドonline

早川幸子:フリーライター

A子さんとB子さんは、この10年、悩んできた膝の痛みをとるために、同じ病院で膝の人工関節手術を受けた。
 年齢は、ともに73歳。
人工関節を入れたのは、2人とも右膝で、受けた治療内容やリハビリのプログラムも同じ。
入院日数はともに20日間だった。

 医療費の自己負担が軽減される健康保険の高額療養費の所得区分は、2人とも「現役並みI」なので、当然、支払うお金も同じになるはずだ。
ところが、最終的に支払った医療費は、A子さんが約10万円だったのに対して、B子さんは約18万円。
 まったく同じ治療を受けたのに、2人の自己負担額に約8万円もの差が出たのはなぜなのだろうか。

不思議に思ったB子さんは、病院に問い合わせてみたが、医療費に間違いはないという。
 この自己負担額の違いは、「高額療養費」の運用ルールから生じるものだ。

その月の「1日から末日まで」の 医療費で高額療養費を計算する
 通常、病院や診療所の窓口では、年齢や所得に応じてかかった医療費の1〜3割を自己負担する。
70歳未満で自己負担割合が3割の人の場合、かかった医療費が1万円なら3000円が自己負担分だ。
 だが、手術をしたり、化学治療を受けたりして、医療費そのものが高額になることもある。
その時、通常の医療と同じような自己負担額だと、3割の負担でも、医療費が100万円なら自己負担額は30万円、医療費が200万円なら自己負担額は60万円だ。
 これでは、医療費が家計の重荷になり、防貧対策としての健康保険の意義を損なうことになりかねない。

そこで、1973(昭和48)年に作られたのが「高額療養費」で、1ヵ月に患者が支払う自己負担額に上限を設けたものだ。  この制度があるおかげで、医療費が高額になっても、それに比例して自己負担額が増えていくことはなく、一定の範囲内に抑えられるようになっている。

高額療養費、3つの注意点!
患者にとって非常にありがたい制度だが、多くの人が等しく制度を利用できるようにするために、運用にはルールが設けられており、
原則的に
「(1)1人の患者が、(2)1つの医療機関で、(3)1ヵ月」に使った医療費をもとに計算することになっている。

 このなかで、A子さんとB子さんの医療費に差をもたらしたのが、(3)の「1ヵ月」というルールだ。
 1ヵ月と聞くと、「30日間」と思うかもしれないが、この1ヵ月は歴月単位という意味で、その月の1日から末日までの医療費を計算することになっている。
そのため、入院期間が月をまたいだ場合は、各月の1日から末日までの医療費が別々に計算されるのだ。
 2人の入院日数は同じ20日間だったが、A子さんが入院したのは5月10日〜5月29日まで。
一方、B子さんの入院期間は、5月20日〜6月8日までと月をまたいでいる。
そのため、A子さんは、かかった医療費がまとめて計算されるが、B子さんは5月分と6月分の高額療養費を別々に計算することになり、次のように医療費に差が出ることになったのだ。

◆入院が「歴月範囲内or月をまたぐか」によって変わる医療費
【試算条件】
・年齢:73歳
・かかった医療費の総額:200万円で
・入院期間: 20日間
・高額療養費の所得区分
:現役並みI

●入院期間が5月10日〜5月29日までのA子さんの自己負担額

・5月10〜5月29日までの高額療養費 8万100円+(200万円−26万7000円)×1%=9万7430円 ⇒9万7430円

●入院期間が5月20日〜6月8日までのB子さんの自己負担額

・5月20〜5月31日までの高額療養費 8万100円+(150万円−26万7000円)×1%=9万2430円
・6月1日〜6月8日までの高額療養費 8万100円+(50万円−26万7000円)×1%=8万2430円 ⇒5月分の9万2430円+6月分の8万2430円=17万4860円  

A子さんとB子さんの医療費の自己負担額の差は7万7430円に!

緊急を要しない手術は入院期間の交渉を
 同じ医療を受けても、入院期間が2ヵ月にまたがったB子さんは、歴月範囲内で収まったA子さんに比べると、自己負担額が7万7430円も多くなってしまった。
 健康保険は、保険料や税金などで運営されている国民の共有財産だ。
決められたルールに沿って運用しないと、制度が立ちゆかなくなってしまうので、高額療養費が歴月単位で計算されるのは仕方のないことではある。
だが、同じ治療を受けたのに、入院期間が月をまたぐか、またがないかによって医療費に差が出るのは、個人としては納得しがたい気持ちになるのも当然だ。

 とくに、これまで医療費が低く抑えられていた70歳以上の高齢者も、2018年8月から、年収約770万円以上の高所得層については、高額療養費の自己負担上限額が引き上げられており、治療期間が月をまたぐと、さらに負担が増える。
 70歳以上の人の高額療養費の見直しは、「負担するのは現役世代、給付を受けるのは高齢者」という従来型の社会保障の構造から、年齢に関係なく「能力に応じて負担し、必要に応じて給付を受ける」全世代型の社会保障制度に転換するための改革の一環として行われたものだ。

そのため、これまで所得に関係なく一律に優遇されていた高齢者も、一定以上の所得がある人には相応の負担を求められるようになっている。

 社会保障制度を持続可能なものにするためには必要な改革ではあるが、病気になったときの負担が増えるのは、うれしいものではないはずだ。
 もちろん、交通事故によるケガ、脳血管疾患など、今すぐ治療しないと命に関わるというものは、入院期間を選ぶことはできない。
だが、人工関節の手術のように緊急を要するものではなく、計画的に行う治療については、入院期間が歴月範囲内に収まるスケジュールを組んでもらえないかどうか主治医に相談してみるのも、医療費を節約するための1つの手段だ。

 直接、主治医に話すのは気が引けるという人は、各病院に設けられている「医療相談室」などに相談してもいい。
ベッドの空き状況、執刀医のスケジュールもあるので、必ずしも患者の希望が通るわけではないが、相談すれば配慮してもらえることもある。

 高齢になると、病気やケガの治療のために入院する確率も高くなり、医療費の負担も増える。
だが、その時、高額療養費の仕組みを知っていれば、ちょっとしてことで数万円単位で医療費を節約できる可能性もある。

入院は、その月の1日から末日までに終えられるのがお得」だということを覚えておこう。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 | Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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