働き方改革、現場は別世界
コンビニ店主「限界」悲鳴 改善は急務
2019/07/06 毎日新聞
兵庫県姫路市内の国道沿いにある大手コンビニエンスストアでは深夜勤務で、店主の酒井孝典さん(58)が1人黙々と働く。
「トイレに行く時は、脱いだ制服をレジに置いて店内を走る。
お客さんも分かっていて、待ってくれる」と苦笑する。
コンビニ加盟店の経営は、半導体関連のエンジニアから脱サラ後、退職金をつぎ込んで始めて約15年になる。
先月下旬には、店主業務を午前中3〜4時間、夕方から夜の繁忙時や午前0〜6時にも店頭に立った。
深夜も来客対応はもちろん、揚げ物やコーヒー器具の洗浄、配送トラックからの商品の検品・陳列など多忙だ。
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一般に大手コンビニ加盟店の月々の売上高は、仕入れに当たる売上原価と粗利益からなる。
加盟店は、粗利益の5〜6割前後を契約しているコンビニ本部へロイヤルティー(加盟店指導料)として支払い、さらに人件費などの経費も負担し、残るのが利益という。
24時間営業に必要な人手が集まらなければ、人件費が割高になる深夜を店主が1人で担い、人件費が減ると利益が出る会計構造になっている。
一方、店主は契約を結んだそれぞれの本部加盟の事業者で、残業時間の上限規制は及ばない。
酒井さんは、数時間単位の細切れ睡眠にも「体が慣れてしまった」。
唯一休まるのは、一昨年から執行委員長を務める「コンビニ加盟店ユニオン」の活動で東京への移動時という。
過去1年間の酒井さんの月間労働時間の記録によると、多くが350時間を超え、380時間前後の月も2回ある。
「命を削っている状態。限界を超えている」。
ため息が漏れるほど「働き方改革」とは別世界だ。
税金などの公共料金の代行収納も増えた。
酒井さんは「公共機関の代わりにどんどんやらされている。
本部とは共同事業者のはずが加盟店は置き去りで進む。
話し合いの場作りが第一だ」と訴える。
今年2月、東大阪市内の店主が24時間営業の短縮を求めて声を上げた。
長時間勤務が続き、政府が掲げる「一億総活躍社会」「働き方改革」に冷や水を浴びせるような店主の悲鳴に波紋が広がった。
先月28日には経済産業省が設けた有識者会議「新たなコンビニのあり方検討会」の初会合があった。
委員の1人で加盟店の経営と労働に詳しい土屋直樹・武蔵大教授(人事管理論)は「店舗でのサービスが多様化し、最低賃金も上がり、人手も人件費もかかる一方、1店舗あたりの売上高は横ばいなので収益悪化が広がっている。
社会のインフラとして利益配分の見直しなど、負担感の大きい現場への手当てが必要な時期が来ている」と強調した。
【浜本年弘】