山本太郎の"政権奪取宣言"に中身はあるか
2019年07月22日 PRESIDENT Online
■今回の参院選で唯一の勝者となった「れいわ新選組」
今回の参院選は、勝者なき戦いだった。
自民党は3年前より獲得議席をわずかに増やしたが、安倍晋三首相が執念を燃やす改憲の発議に必要な参院での「3分の2」を失った。
野党・立憲民主党は議席を伸ばしたとはいえ、17議席では野党第1党の迫力には欠ける。
そんな中で唯一の勝者をあげるとすれば、山本太郎氏が率いる「れいわ新選組」だろう。
当初、泡沫政党扱いをされていたがが比例代表で2議席を獲得した。
今後、さらなる飛躍を遂げることはあるのだろうか。
■「小泉フィーバー」や「民主党政権」を超える盛り上がり
「おはようございます。元気やな。もうすぐ(電車の)始発が出ますよ皆さん」
参院選の大勢が判明した7月22日午前4時半過ぎ、山本氏は底抜けに明るい笑顔で記者団に声をかけた。
公職選挙法などで政党要件を持たない「れいわ」は、新聞、テレビなどでは「その他大勢」を意味する「諸派」扱いをされ、ほとんど報道されなかった。
新聞、テレビだけを情報源にしていた人は、存在すら知らなかったかもしれない。
しかしツイッターなどのSNSを介して「れいわ現象」は急速に広がった。
選挙戦最終日の20日夕刻から東京・新宿駅西口で行われた街頭演説は、SNSで知って集まった人で埋め尽くされ異様な盛り上がりとなった。
長年、選挙取材をしてきた全国紙記者は「1989年の参院選での社会党・土井たか子委員長、『郵政選挙』と言われた2005年衆院選での小泉純一郎首相、09年の民主党ブームなどよりも、はるかに大きなうねりだった」と証言する。
それぐらいの「事件」だったという。
■「消費税廃止」に焦点をしぼった訴えが奏功
知名度もなく、マスコミにも無視される中での2議席獲得は大健闘ではある。
ただし、街頭の熱狂は、もっと議席を獲得するのではないか、と予感させるものだった。
比例区に「特定枠」として2人を擁立したため、3議席以上獲得しなければ当選できない立場に身を置いていた山本氏も、議席は得られなかった。
そういう意味では「うれしさも中ぐらい」の結果だった。
それでも山本氏は「10人擁立して10人通せなかったのは私の力不足。
私自身も議席を得られなかったのは残念なことだ。
しかし、一切後悔はない」と前を向いた。
次につながる結果だったと受け止めているのだろう。
なぜ「れいわ」の声は国民に届いたのか。
これは山本氏の存在感と演説に尽きる。
元俳優だけにトーク力の高さは国会質問などで実証済みだったが、今回の選挙戦では「消費税廃止」に焦点をしぼった訴えが分かりやすかった。
他の野党の訴えが「10%に上げるのは反対」などとまわりくどかったのとは対照的だった。
■次の選挙では「100人ぐらい候補者を立てないといけない」
中でも最も歯切れよかったのが「政権を獲る」と宣言したことだ。
今回の参院選で国会に足掛かりをつくり、来る衆院選などを通じて国会で多数派を形成すると断じている。
その実現性はさておき、とにかく聞く者に響いた。
安倍1強といわれる現状に不満を持っていた人たちの受け皿となったのだ。
山本氏は22日未明の会見で「私たちは無視できない存在になっている。
(次期衆院選には)100人ぐらい候補者を立てないといけないだろう。
メンバーもそろえて皆さんの力を借りながら、政権を取りにいく気迫でいきたい。
(自身も候補者として)出るしかないのではないか」と自ら衆院選に出馬する考えも明らかにした。
「れいわ」がイメージするのは、細川護熙氏が代表を務めた日本新党ではないか。
日本新党は1992年の参院選で国政初挑戦し4議席を獲得。
そして翌年の衆院選では35人の当選者を出し、その流れで同年8月、細川氏は首相の座に上り詰める。
まさにホップ、ステップ、ジャンプ。
ゼロからスタートして1年で政権政党に上り詰めた日本新党の再来を、「れいわ」は目指すことになる。
今の政治状況をみると早ければ年内に衆院選があるという予測もある。
遅くとも2021年秋の衆院任期満了までには必ずある。
山本氏も日本新党のことは頭の中にあるはずだ。
■同じ選挙区に野党が乱立すれば、共倒れになるだけ
ただし山本氏と「れいわ」の前途がバラ色というわけではない。
まず難しいのは、野党の枠組みの中での立場だ。
山本氏は、「最も厄介な抵抗勢力」を自任するだけに安易な妥協はできないだろう。
このため立憲民主、国民民主などの野党の中には、山本氏の発言を「人気取りのスタンドプレー」と見る向きもある。
共闘関係が築けなければ、同じ選挙区に野党が乱立して共倒れになる。
そうなれば共通の敵である自民党を利するだけだ。
一方、野党内には「れいわ」との連携に期待を抱く向きもある。
そこで野党共闘を優先して、山本氏が参院選で発言していたことと違うことを口にし始めたとしたらどうなるか。
参院選で山本氏の訴えに熱狂した人たちは一気に冷めるだろう。
■「100人という数字には野党共闘も入ってくる」
山本氏は22日未明の会見では次のように述べ、野党共闘に含みを持たせた。
「消費税廃止は譲らない。
しかし、他党が減税ということで舵を切るならば、話し合いの余地はある。
一番は、この国に生きる人々のために、本気で仕事をする気があるかってこと。
そうなったうえで一緒になれる方とは、一緒にやっていく。
政権をとるならば、衆院選には100人ぐらい候補者を立てないといけない。
この数字には野党共闘も入ってくるので、立てる場所、立てない場所も話し合いで出るだろう」
社会党の土井氏、民主党の鳩山由紀夫氏、希望の党の小池百合子氏……。野党側からは新党や新しい指導者が次々に誕生して時代をつくったが、人気のピークは長続きしなかった。
17年の衆院選でブームを起こした立憲民主党の枝野幸男代表も、今回の参院選では集客力に陰りがみられた。
それらの原因は、選挙では歯切れのいいことが言えても、現実の政治はそう簡単ではないからだ。
過去の新党と同じ轍を踏まないためには、どうすればいいのか。
山本氏が支持を拡大するためには、他の野党との連携を意識しながら「最も厄介な抵抗勢力」であり続ける必要がある。
山本氏の道のりは険しい。
(プレジデントオンライン編集部 )