歩行の定義から逸脱「大股歩きは体にいい」は間違いだった
2019年07月23日 日刊ゲンダイヘルスケア
今回の参院選は、「老後のために2000万円貯めておけ」という、年金問題が争点となったが、上がらない給与体系の中、2000万円など到底貯めておくことのできない大部分の庶民は、結局死ぬまで働き続けるしかない。
だが、歩くことができなくなると、働く方法はかなり限られる。
一部の仕事を除いて、老後も働き続けるためには、自分の足で立って歩ける能力を維持することは、最低条件だと言っていい。
「歩き続ける」は、テレビの健康番組でも定番のテーマだが、そこで長年お馴染みになってきたのが、「大股で歩くのが体にいい」というフレーズ。
ところが、これが大きな間違いだと指摘するのが、「JCHO東京新宿メディカルセンター」(東京・飯田橋)のリハビリテーション士長である理学療法士の田中尚喜氏だ。
「NHKの番組では、必ず大股で歩きましょう、と言っています。
これがどうして始まったか調べると、どうもそれ以前はジョギングブームだったのが、一生懸命ジョギングした結果、心不全で亡くなった方が出たので、今度はウオーキングにしましょう、大股で腕を振って歩きましょう、となったようなんです。
ところが、この歩き方では気分も高揚して速く歩けるが、20分以上経つと疲れて速度が下がってしまう。
長く歩くためには、あまり大股で歩かないほうがいいんです」
江戸時代の人はどんなに遠くても徒歩でお伊勢参りをするほど健脚だった。
着物だと大股で歩くと裾がはだけてしまうため、当然小股で歩いていたと田中氏は説明する。
大股で歩くと、足が前に出過ぎて、膝が曲がってしまうため、「大腿四頭筋」という筋肉に負担がかかる。
その反動で、足と太ももは後ろにいかなくなり、本来使用しなければならない「大臀筋」という筋肉を、使わなくなってしまうのだという。
「そもそも、人間の歩行とは、ある目的を達成するために体の中心、いわゆる重心を目的物に近づける行為のことです。
それなのに、足や腕を無駄に大きく振り出すと、重心は後方に下がってしまう。
これでは、歩行の定義から逸脱してしまうのです」
田中氏によると、ここ30年、つまり平成の間に、大臀筋が萎縮してジーパンの平均的なヒップサイズが小さくなり、ふくらはぎの腓腹筋が肥大化してブーツが太くなった。
そして、一番大きな変化は、歩くだけで疲れてしまう人が急増したことだという。
平成の30年間は、歩く力が失われていった30年だったのだ。
筋肉には、持久力に優れた遅筋と、瞬発的な力を出す速筋がある。
高齢になると速筋が落ちて遅筋だけで生活するようになるため、これを是正するために、健康番組では、大股で歩く、腕を振るという内容を入れるようになったのでは、ということだが、本来は、歩く際にこんな大げさな動作をする必要はない。
このような激しいウオーキングでは短時間で疲れて、歩くのをやめてしまう。
田中氏は「健康のために歩くなら、小股で長時間、普通に散歩をするのが、一番いい」という。