女性非正規の半分が
ワーキング・プアという、
令和日本の悲惨な実態
2019年07月24日 ニューズウィーク日本版
舞田敏彦(教育社会学者)
<法定労働時間で「普通の暮らしができる」かどうか見てみると、女性非正規雇用の厳しい現状は突出している>
参院選が終わったが、選挙ポスターで「1日8時間働けば普通の暮らしができる社会へ」と訴えている候補者がいた。
労働基準法では法定労働時間(週40時間)が定められており、これを満たせば勤労の義務を全うしているので当然だ。
しかし現実はまったく違っているので、このフレーズが新鮮に思えてくる。
労働時間と給与は相関するはずだ。
単純労働や肉体労働が減った今では、他の要素が入り込む余地が多いが、普通に働けば普通の暮らしが保障される社会が望ましいのは変わらない。
普通に働く目安が「1日8時間=週40時間」だ。
2017年の総務省『就業構造基本調査』に、週間就業時間と年間所得(税引き前)のクロス表が出ている。
そのデータをグラフにすると、<図1>のようになる。
所得は200万円刻みの4カテゴリーにまとめた。
男女とも週35時間で段差があり、それ以降の所得はほぼフラット(変化なし)となる。
週40時間も60時間も、所得の分布には大差ない。
働く時間よりも、パートタイム(非正規雇用)かフルタイム(正規雇用)かの違いが大きいようだ。
男性の週35〜45時間をみると4割ほどが所得400万円未満で、600万を越えるのは4人に1人だ。
法定の労働時間の対価がこうなのだが、普通の暮らしができるレベルと言えるかどうかは、判断が分かれるところだ。
右側の女性を見ると、こちらは厳しい印象を受ける。
水色と茶色のゾーンが広く、週40時間働いても4人に3人が400万円に届かない。
4人に1人は、200万円に満たないワーキング・プアだ。
女性の場合、長時間働いても600万円を稼ぐのは難しい。
女性を正規雇用と非正規雇用に分けると、もっと悲惨な実態が露わになる<図2>。
正社員であっても、週40時間労働で400万円稼ぐのは並大抵のことではない。
右側の非正規は目を背けたくなる模様で、どれほど働いても半分がワーキング・プア、9割が400万円未満となっている。
非正規はマイノリティかというと、そんなことはない。
女性労働者の4割は非正規雇用だ(実数だと755万人)。
夫の扶養下で就業調整している人が多いだろうが、この超薄給で生計を立てている人もいる。
たとえばシングルマザーだ。
どれほど働いても貧困から抜け出るのは難しい。
母子世帯の困窮は、上記のグラフからはっきりとうかがい知れる。
女性は男性に扶養されるべしという考えが続いてきた結果だが、21世紀になってもこうした現状とは驚かされる。
女性の社会進出は、M字カーブの底が浅くなった(出産・育児期の女性就業率が上がった)とか、そういうことでは測れないようだ。
週35〜44時間働く女性に年収をたずねてみると、有業者の下位25%未満という回答は、アメリカやスウェーデンでは数パーセントしかいない(OECD「PIAAC 2012」)。
日本のように、普通に働いても女性の大半がワーキング・プアという社会はあまりない。
女性は男性に養われるべしという考えが強いことが理由だろうが、その考えは時代にそぐわなくなっている。
未婚率、離婚率の高まりで、自身の稼ぎで生計を立てている女性は増えている。
正社員になれればいいが、雇用の非正規化でそれも容易ではない。
となると、<図2>の右側のような蟻地獄でもがき苦しむことになる。
メディアで報じられる母子世帯の悲惨な生活実態は、その可視化に他ならない。
<図2>のデータは、独身者と既婚者が混ざったものだが、夫のいない未婚の非正規女性の所得も出せる。
老後が見え始めているアラフィフ年代(45〜54歳)に注目する。
<表1>は、47都道府県の中央値(median)を高い順に並べたものだ。
全県がワーキング・プア一色となっている。
単身では生活が厳しいと思われるが、これで暮らしている人もおり、子を養っているシングルマザーもいる。
未婚者なので就業調整しているとは考えられない。
独り身を養うべく、フルタイム労働をしている女性が大半だろう。
しかし対価はこの有様。
老後のことなど考えたくもないはずだ(その時間もないかもしれない)。
普通に働けば普通の暮らしが得られる。
この原則に照らせば、上表の実態は違法とも言えるレベルだ。
AIの台頭により,人間が労働から解放される時代が来ると言われている。
それはまだ先だろうが、1日8時間の普通の労働で事足りる時代はすぐそこまで来ているはずだ。
AIとBI(ベーシックインカム)の組み合わせで、普通の労働で普通の暮らしができる社会の実現が望まれる。
<資料:総務省『就業構造基本調査』(2017年)>