大政策をひとつも残せない「時間浪費」の戦後最長政権
2019/09/01 日刊ゲンダイ( 伊藤惇夫政治アナリスト )
この8月24日、安倍首相の在職日数は佐藤栄作元首相を超え、戦後最長となった。
11月20日を過ぎれば、歴代最長の桂太郎元首相を抜くことになる。
長期政権となった要因の大半が弱体野党にあることは間違いないが、この政権が過去に例がないほどの「安定政権」であることは否定できない。
だが、「安定」に「安住」する政治ほど、始末の悪いものはないことを改めて指摘したい。
安定政権には安定しているからこそできること、やらなければいけないことがある。
それは、国家の将来を見据えた長期ビジョンの策定だ。
目先の人気取りや個人的な名誉欲にとらわれるのではなく、この国の現状と予測可能な将来に待ち受ける課題を、冷静に、客観的に分析し、30年、50年先のあるべき姿を描き、そのために必要な対応策を国民に示すことこそが、政治、政権に課せられた責務だろう。
連載の第1回でも触れたが、急激な人口減ひとつとっても明らかなように、この国の「体力」は確実に低下していく。
「世界第2位の経済大国」に再び舞い戻ることなど不可能だ。
にもかかわらず、安倍政権はそうした冷厳な事実から目をそらし、「日本を取り戻す」「1億総活躍」「アベノミクス」といった空疎なスローガンを連発し、国民にバラ色の夢をまき散らしている。
そんなことは不可能なのに。
かつて、田中角栄は列島改造論を唱えた。
確かに、土地バブルに象徴される弊害を伴ったことは事実で、賛否両論があるのは当然だが、一方で、この改造論が工業再配置と交通・情報通信網の全国ネットワーク構築によってこの国の全体像をつくり替える、という壮大なビジョンだったことは否定できない。
ついでに言えば、志半ばで倒れた大平正芳が唱えた「田園都市構想」も、ある種の国家改造論だった。
それに対して安倍首相はどうなのか。
次々と看板政策を打ち出すが、どれもその場しのぎの「小政策」で、おまけにその大半が尻切れトンボ状態だ。
何度も言うが、この国は確実に「下り坂」に直面している。
当面の課題を処理することは当然だが、同時に政治は、特に安定的な政権は、この長い下り坂を、どれだけ緩やかなものにするか、その先にどうやって「平地」を見いだすかという道筋を示すことが最大の使命だろう。
言い方を変えれば、体力低下を体質改善によって、どう防ぐかということ。
その方向性が国民に提示されることで初めて、そこにたどり着くために必要な、痛みを伴う政策についても理解を得ることが可能になる。
安倍政権もやがては幕を閉じる。
その時、いったい何が残っているのか。
ただ「長いだけ」の政権であるなら、それは無駄な時間どころか、「劣化」を放置、助長した“邪魔もの”にすぎなかったことになるのではないか。
政治の怠慢がこの国を劣化させていく。