「術後うつ」にならないために知っておくべき注意点
2019年09月06日 NEWSポストセブン
大病が見つかったら、すぐに手術や治療を受けることが肝要だ。
ただし、適切な処置が行なわれたとしても、術後・退院後に意外な落とし穴が潜んでいることがある。
それが「術後うつ」「退院うつ」のリスクだ。
NPO法人うつ・気分障害協会代表理事の山口律子氏は、術後うつを発症する患者は少なくないと指摘する。
「大病の手術の後は、経験したことのない不安や体力の衰えを感じることがあります。
とくに高齢者の場合、術後は本人が思っている以上に心身にダメージを受けている。
手術は成功したはずなのに思うように動けない、寝つきが悪い、前よりも疲れやすくなった、といったことがストレスになり、うつ状態になってしまうことがあるのです」
そんな術後うつ、退院うつにならないために、あらかじめ注意できるポイントがある。
銀座泰明クリニックの茅野分・院長(精神科医)がアドバイスする。
「手術や治療の前に、術後に痛みが伴うケースなどの情報を詳しく聞いておくこと(インフォームド・コンセント)が重要です。
例えば、この手術の場合、患部の痛みはどれくらいの期間続くのか。
完全に治るまでにどのような痛みが出るのか。
痺れや麻痺などの後遺症が出る確率はどのくらいあるのか。
こうした情報を聞いておくことで術後への心構えができますし、それ以外の異変が生じた際に本人も家族も気づきやすくなります」
あらかじめ肉体的ストレスの少ない「低侵襲手術」を受ける選択肢もある。
医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。
「手術によって切除する場所が少なく、刺激も少ない手術のことを全般的に『低侵襲手術』と呼びます。
例えば、大腸がんや胃がんなどに対しては、『腹腔鏡手術』が行なわれる機会が増えました。
お腹に小さな穴を開けるだけなので、従来の開腹手術と比べて体への負担がかなり軽くなったといえます。
心臓疾患なら『カテーテル』を使った手術、ヘルニア関節手術では『内視鏡手術』が、より低侵襲の手術です。
また、腹腔鏡手術をロボット支援の下で行なう『ダヴィンチ手術』は、より複雑で細やかな手技が可能になり、3次元の精確な画像情報を取得できるため、より安全かつ侵襲の少ない手術が可能になります。
最先端治療のため保険適用外となる病気も多かったのですが、近年では胃がん、肺がん、直腸がんなどの患者数が多い疾患への保険適用が進んでいます」
治療の選択では、「術後うつのリスク」よりも「治療の効果や必要性」を優先すべきことは言うまでもないが、治療の先に待つ“思わぬリスク”の存在を知っておくに越したことはない。
※週刊ポスト2019年9月13日号