無責任政治が「賃金底抜け」と「年金破綻」を助長する
2019.11.21 ダイヤモンドオンライン
金子 勝
:立教大学大学院特任教授・慶應義塾大学名誉教授
香典や運動員への過大な報酬など、公職選挙法違反が疑われる“ばらまき”で閣僚2人が相次いで辞任したのに続き、首相側近の萩生田光一文科相の「身の丈」発言で、民間英語試験の導入見直しを余儀なくされるなど、安倍改造政権は発足2ヵ月で早くも“末期症状”だ。
税金でまかなわれる「桜を見る会」の招待に、首相自身の後援会事務所が関与していた“公私混同”が明らかになり、来春の見る会は中止となり、20日には首相自身が招待客の推薦に「関与」したことを認めた。
政治家の無責任や弛緩は目を覆うばかりだが、深刻なのは、「無責任政治」によって、国民生活の基盤さえも崩れ始めていることだ。
厚労政務官の「口利き疑惑」 が物語る政治の“深刻”さ
菅原一秀経産相と河井克行法相の辞任で、陰に隠れた形になったが、上野宏史・元厚労政務官の外国人労働者受け入れを巡る「口利き疑惑」と、年金財政検証の公表先送りは、その象徴だろう。
外人労働者受け入れで“手数料”稼ぎ?
上野衆議院議員が厚労政務官を辞任したのは、8月28日。
その後も安倍政権の不祥事が続くなか人々の記憶から遠のき始めているが、辞任の引き金になった週刊誌が報じた疑惑は次のようなものだ。
上野元政務官は、飲食店やドラッグストアなどに外国人労働者を派遣している人材派遣会社「ネオキャリア」の外国人労働者の在留資格申請について、出入国在留管理局に対して許可を早めるように働きかけることで、1人当たり2万円の「報酬」をネオキャリアから得ようとしたとされる。
秘書との打ち合わせとされる録音テープが報じられ、秘書もテープは「本物」だと認めたようだ。
その後も、ネオキャリアへの仲介者とされる女性経営者と上野議員のやりとりという新たな録音テープの存在も報じられた。
その中で、上野元政務官は、1件につき「3でも5(万円)でも」「月に100万円に」なれば、とも語っている。
一連の疑惑報道に対して、上野議員は全面的に否定をしたが、厚労政務官を辞任した。
仮に報道が事実だとすれば、法律を厳正に運用すべき法務省が、政治の言いなりになり、口利きという斡旋利得罪の疑いの対象になる異常な事態だと言ってよい。
外国人労働者受け入れ拡大を目指した改正入管難民法は、衆議院の審議時間はわずか17時間。
衆参法務委員会でも審議は合わせてわずか33時間だった。
審議過程で、低賃金や過酷な労働条件で働かされかねない外国人労働者の人権をどう守るかが問題にされたが、安倍首相は「あらゆる手段を尽くし悪質ブローカーを排除していく」(2018年12月6日)と答弁していた。
しかし、口利きが行われたとしたら、内閣の担当政務官自身が外国人労働者の受け入れで“手数料”をかせぐ「悪質ブローカー」だったことになる。
現役世代は賃金低下 高齢者は年金不安に
改正入管難民法がもたらす問題は、外国人労働者にとどまらず、賃金と雇用条件の底割れを作り出す点にある。
90年代には労働者派遣法が改正され、低賃金・不安定の非正規雇用が拡大して、賃金と雇用を破壊した。
今回の改正で、14の分野(外食、宿泊、介護、ビルクリーニング、農業、漁業、建設、造船・舶用工業など)で、「外国人技能労働」の受け入れが始まったが、非正規労働者に加え、低賃金の外国人労働者が増加することで、働く人全体の「賃下げ」をもたらす可能性が強い。
年金公表延期し「不都合な真実」隠蔽?
日本は有効求人倍率がバブル期並みの1.8を超える「人手不足」にもかかわらず、実質賃金が持続的に下落、今年に入ってからは名目賃金も低下する「異常」な状況が一段と悪化しかねない。
さらにこの問題は年金制度にも波及する。
現役世代の賃金の低下は、高齢者の生活を直撃することにもなる。
実質賃金が持続的に下落する状況が続けば、年金財政が成り立たなくなっていくのだ。
年金に対する不安が強まっているなかで、安倍政権は、例年なら6月に公表する年金財政検証を8月の参議院選後まで先延ばしした。
「老後の貯蓄不足2000万円」問題が急浮上し、年金問題が参院選の争点になるのを恐れたからだが、年金担当の厚労政務官だった上野議員は、参院選前から、年金財政検証で概ね所得代替率は50%以上を確保できるかのような国会答弁をしてきた。
選挙への影響を少なくするため、年金の「不都合な真実」を隠蔽したといってもいい。
参院選でなんとか勝利し改造内閣を発足させた後の10月4日、安倍首相は所信表明演説で、「8割の方が65歳を超えて働きたい」と願っていると言い、「70歳までの就業機会を確保します」と強調した。
この発言の根拠は、2014年度の「高齢者の日常生活に関する意識調査」とされるが、調査ではそんなことにはなっていない。
調査によると、就労希望年齢を65歳以上としている人は「8割」ではなく全体の55.3%だ。
一方で、65歳以上で「家計が苦しく、非常に心配である」と答えた人が60.2%を占めている。
多くの人々が「働きたい」というのは、年金はじめ社会保障の削減が続き、老後に不安があるから働かざるを得なくなってきているということだろう。
年金制度は「維持」されても 給付削減で老後不安強まる
この問題でも政治の責任は大きい。
年金不安の第1の原因は、人口推計で、少子高齢化の予測を甘くしてきたことがある。
国立社会保障・人口問題研究所の高位、中位、低位の3つの人口推計のうち、政府は常に中位の推計を選んできたが、少子化や高齢化の実際の数字はずっと中位の推計を下回ってきた。
予想以上に、年金給付をもらう人が増えて、年金保険料を納める人が減っていけば、年金財政が悪化するのは当然だろう。
深刻な母子家庭や非正規社員の老後
政府は今後、2004年に導入されたマクロ経済スライドをフルで発動しようとしている。
マクロ経済スライドは、保険料を納める被保険者数の減少と平均余命の伸びに応じて年金給付水準を削減する仕掛けだ。
その結果、今回の財政検証では、成長実現のケースでは、マクロ経済スライドが効いて、30年には給付が2割減になり、国民年金(基礎年金だけ)なら約3割も削減になる。
経済成長が実現できないベースラインケースで見ると、国民年金なら約4割の削減になる。
国民年金は現状で約6万5000円だが、30年にはいまの物価水準で考えると4万円前後になってしまう。
マクロ経済スライドを適用することで、給付水準を削ることができて、結果として年金財政全体は維持できることになる。
しかし制度が維持されたところで、給付水準が大幅に削減された年金では生活できなくなってしまう。
とくに問題となるのは、ロストジェネレーション(ロスジェネ)や母子家庭である。
一方で政府は制度維持の対策として、年金受給の開始年齢を引き上げることやパートや契約・派遣労働者の厚生年金適用を拡大していくことを掲げている。
だが年金受給年齢を引き上げるといっても、年金をもらえるようになるまでの高齢者の雇用が簡単に確保できるとは思えない。
厚生年金の適用拡大も、労賃コストの割合が高い小規模事業者などは、企業拠出金を負担できない可能性が高く、一定の限界がある。
シミュレーションとは言えない代物
ご都合主義の「中長期試算」
年金不安の第2の原因は、年金財政検証の基礎になっている「中長期の財政経済に関する試算」(以下「中長期試算」)に無理があり、したがって年金財政検証のシミュレーションも現実にあり得ない無理な数値を前提としていることだ。
「中長期試算」は内閣府が半年ごとに改訂しているが、年金財政検証は、まずは最初の10年間は、「中長期試算」の成長実現ケースとベースラインケースのシミュレーションを前提にして、それ以降は6つのケースに分けて年金財政の状況を予測・分析している。
ケースT〜Vは、「中長期試算」の成長実現ケースで労働参加が進むケースになる。
ケースW〜Yはベースラインケースであり、そのうちWとXは労働参加が進むケースで、Yは労働参加が進まないケースになる。
現実にはあり得ない数値の組み合わせ
この手の「試算」では、物価上昇率を低めにして名目GDP成長率がそれを上回るようにすれば、実質GDP成長率を上げていくことができる。
同時に、財政赤字を膨らませないよう(プライマリーバランス=基礎的財政収支を黒字)にするには、名目GDP成長率が名目長期金利を上回っていくことが必要条件になる。
だが、アベノミクスの効果が落ちているために、こうした条件を満たそうとすると、どんどん現実にはあり得ない数値の組み合わせになってしまう。
とてもシミュレーションとはいえない代物になってしまっているのだ。
「中長期試算」のうち経済成長が最もうまくいくケースを見てみよう。
第2次安倍政権が発足し日銀が異次元緩和を始めた4ヵ月後の2013年8月の「試算」と直近の2019年7月末の「試算」を比べてみると、行き詰まりがはっきりわかる。

図1は、2013年8月の「中長期試算」の経済再生ケースだ。
2年で2%の物価上昇率が実現するという異次元緩和が成功した場合で、名目GDP成長率が急速に上昇するとともに、消費者物価上昇率も名目長期金利もそれにつれて上がっていくシナリオが描かれている。
これに対して図2は、2019年7月の「中長期試算」の成長実現ケースだ。

これを見ると、2018年に名目GDP成長率が0.5%だったのに、19年1.7%、20年に2.0%、24年までに3.4%まで急上昇していく。
これだけ急速な経済成長があるなら、物価上昇率も長期金利も上昇していくのが自然である。
ところがそうはなっていない。
実質賃金が不自然に上昇する年金検証
物価上昇率は3年間0.7%に止まり、20年に0.8%の後、急激に24年に目標の2%まで急上昇する。
長期金利にいたっては、2017年から22年までずっと0%で、安倍政権の4期目が終わった後の23年から急速に上昇することになっている。
しかも、それでもプライマリーバランスの達成時期を2025年から27年に先延ばしせざるを得なかった。
つまり、経済成長がうまくいく一方で、東京オリンピックや安倍首相の自民党総裁任期(21年9月)が終わるまでは、本来なら成長率と連動して上がるはずの物価の上昇率は低く、長期金利も極端に低いゼロのままで推移するというわけだ。
安倍首相の在任期間中は、そこそこの経済成長で財政赤字も大きくは膨らまないように見せ、首相の任期が終わった後から、物価や金利が急上昇するというのは、あまりにご都合主義すぎる。
これでは「試算」自体を信頼できない。
実質賃金があまりに 不自然に上昇する
今回の年金財政検証では、この「中長期試算」のうえに、20〜30年間の数値の仮定を設けてシミュレーションをしている。

しかし、表1に示すように、その数値もまた非現実的なのである。
例えば、全てのケースで、実質賃金上昇率が実質GDP成長率を上回っている。
とりわけ20〜30年間の長きにわたって、実質経済成長率がゼロからマイナス0.5%なのに、それでいて実質賃金がプラスになるとはとても考えにくい。
この20年近くにわたって実質賃金はマイナス基調で、2019年も含めて安倍政権期に入っても、実質賃金がプラスだったのは2016年と2018年だけだ。
しかも18年は厚労省による賃金統計改ざんの年で、実際はマイナスである。
こんなあり得ない数値をならべてシミュレーションをしても、検証としてはほとんど意味をなしていない。
いずれ国民生活の底が抜ける日が来る もし、これまでと同じく実質賃金がマイナスの場合はどういったことが起きるだろうか。
実質賃金が下がった分だけ、保険料水準も年金給付額も目減りしていく。
その一方で、実質賃金がマイナスだと、マクロ経済スライドが効かなくなる。
年金給付も下がりながら、年金財政も悪化してしまう。
つまり、今回の年金財政検証からは現実に起こり得る「最悪のケース」が外されているのだ。
失敗した成長戦略 国民生活の底が抜ける
こうした成長率や実質賃金などの無理を前提による「粉飾」が行われてしまうのは、内閣府や厚生労働省のせいというより、安倍政権の成長戦略が失敗しているためなのだが、「安倍一強」の長期政権のもとで、失敗や法律違反に痛痒を感じなくなっている政治や官僚のモラルダウンが影を落としていると言わざるを得ない。
放漫財政と異常な金融緩和によって“景気拡大”を演出し、政権を維持してきたが、日本はイノベーションがなく産業の衰退が著しいがゆえに、金融緩和による円安とともに、雇用制度の改悪による賃下げに頼って、既存の製品の輸出で稼いでいるだけである。
産業政策の失敗で次世代先端産業を育てきれない中、このままではじわじわと格差と貧困が拡大していく。
現役世代の賃金だけでなく、退職世代の年金給付も削減が続き、国民の生活の底が抜ける日が来る。
今日の寒さで・・ ミータにヒーターを出してあげました
ヒーター前にベッドも設置
早速、ベッドでヌクヌク・・ 喜んでます(笑)
素敵な週末をお過ごしくださいね (^^♪
このところ急に寒くなりましたものね。
私も 書斎では電気ストーブ全開で 時々 布団に入りウトウトです。
散歩するミータを見習って 歩かねばと思うのですが、通院も寝坊して来週回しにと21日に「電話」する体たらくです。
週末は、映画三昧の生活になりそうです。
よい週末にしてくださいね。