セブン-イレブン「残業代未払い」の呆れた顛末
ガバナンスの利いていない経営体制が露呈
2019/12/15 東洋経済オンライン
遠山 綾乃 : 東洋経済 記者
24時間営業をめぐる加盟店への対応やセブンペイの不正利用など、問題が相次いだ2019年のセブン-イレブン・ジャパン。
年の瀬が近づく12月の初旬になっても、セブンの経営陣は、また会見で深々と頭を下げた。
「従業員、オーナーならびに関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」。
12月10日、都内で行われた会見で、セブン-イレブン・ジャパンの永松文彦社長は謝罪した。
残業代の支払い不足は4.9億円 セブンはこの日、全国各地の加盟店で働くアルバイトやパート従業員に対して、セブンが創業した1970年代から長きにわたり残業代の一部が支払われていなかったと発表した。
記録が残っている2012年3月以降だけで、対象は8129店の計3万0405人、未払い額は遅延損害金の1.1億円を含めて4.9億円に上る。
1人当たりの不足額は最大で280万円に達し、平均は約1万6000円だった。
今後の進展次第では、対象人数や金額が膨らむ可能性もある。
セブンでは、本部とフランチャイズ契約を結ぶ加盟店がアルバイトなどを雇い、人件費を負担する。
給与の計算や支払いは、本部が代行している。
この給与計算の過程において、本部が計算式を誤っていた。
一部の加盟店では従業員に対し、休まずに出勤した場合などに支払われる「精勤手当」や、シフトリーダーなどの職務の責任に対しての「職責手当」が支給されている。
勤務時間が1日8時間、週40時間の法定残業時間を超えて残業手当が支給される際、この精勤手当や職責手当に対しても残業手当を支払わなければならないが、この部分が一部支払われていなかった。
1974年に東京都江東区に第1号店を出店したセブンだが、1970年代から1980年代に始めた精勤手当や職責手当に対する残業手当は、長らく支払っていなかった。
2001年6月に労働基準監督署から支払うように是正勧告を受け、セブンは給与の計算式を変更。
だが、精勤手当や職責手当に対する残業手当の計算式は本来、割増率を1.25倍としなければならないが、0.25倍として誤って適用していた。
この原因について、会見に出席したセブンの石丸和美フランチャイズ会計本部長は「法令に関する理解が不足していた。それだけでなく、社内でミスに気づけるチェック体制が整備されていなかった」とうなだれる。
2001年に計算式を変えた際、式に基づいて計算が正しく行われるかという確認はしていた。
しかし、人事や労務管理のプロである社会保険労務士によって計算式そのものが正しいか確認された記録はなく、今までミスが放置されていた。
当時、セブン-イレブン・ジャパンの会長だった鈴木敏文・現セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問も、この件を知らなかったという。
都内のある加盟店オーナーは、「加盟店では細かく調べたりせず、本部が計算した金額をそのまま支払う。
しかも、アルバイトに残業代を支払うのは、よほど人手が足りず苦しい加盟店に限られる。
そういう店舗のオーナーは細かいところに気づかないし、気づこうともしない。
多くのアルバイトは、給与をもらったら給与明細を捨てるのが現実だ」と話す。
給与明細には手当ごとの残業代が記載されず、総額としてまとめられていることも、問題が発覚しにくい要因となった。
事実を公表してこなかったセブン セブンの姿勢として深刻なのは、今回発覚した計算間違いそのものよりも、こういった事実を公表してこなかったことだ。
2001年に労働基準監督署から是正勧告を受けた当時は、事実を公表せず、しかも2001年以前に未払いだった一部残業手当も支払われないまま今日に至った。
さらに2019年9月に、ある加盟店に対し労基署が残業代の一部未払いについて是正勧告を行ったと、セブン本部に連絡が入ったものの、「(対象が)非常に多くの店舗、人数となるので、どのような形で支払うのがいいのかといった詰めを今までやっていた」(永松社長)ため、発表が12月まで遅れたという。
複数の加盟店オーナーは、こういった本部の一連の対応を問題視する。
「問題は、2001年に是正勧告を受けてからも公表しようとしなかった本部の根深い隠蔽体質にある。
セブンが今後どこに向かっていくのか心配だ」と、西日本の加盟店オーナーは憂慮する。
2001年当時に公表しなかった理由について、永松社長は「(2019年9月に労基署から是正勧告を受けて以降)議事録などの確認や社員への聞き取り調査を実施した。
だが、この件に関する記録が残っておらず、当時と今の(本件に関わる)担当者が違うこともあり、詳細がわからなかった。この時点でなぜ公表しなかったのか、現時点ではわからない」と話す。
永松社長のこの発言に対して、前出の都内加盟店オーナーは「『議事録など過去の記録はない』『担当者は退社して不在』、こういった答弁で逃げ切ろうとしている。
みっともない記者会見だった」と、憤りをあらわにする。
再発防止策も打ち出すが…
今回発覚した未払い残業代については、本来加盟店が支払う必要のある人件費だが、セブン本部に落ち度があったため、すべて本部が負担する。
社内外のチェック体制の強化や社内研修等の強化など、再発防止策も打ち出す。
また、永松社長は自身の月額報酬3カ月分について10%を自主返上する。
だが、加盟店の本部への信頼を取り戻せるかどうかは疑問だ。
「創業から45年が経ち大きく環境が変わる中で、われわれ自身が変わってこられなかったのが1番の問題。
役員、社員全員でもう一度、本部としてのあり方や加盟店オーナーにどういうサービスを提供していくのかを考える。
今までのやり方を払拭していく」。
永松社長はこのように強調するが、信頼回復への道のりは険しい。
問題続出のセブン。
経営トップの強いリーダーシップによる、透明性のある経営体制への変革が求められる。