れいわ・山本太郎
「長いものに巻かれない強さ」の秘密
2/12(水) THE21
「なんかムカつく」という漠然とした敵意
先の参議院選挙で、れいわ新選組の山本太郎代表が街頭演説に立つと、ヤジや罵声が飛ぶことも少なくなかった。
ただ、山本氏が他の政治家と違うのは、心ない言葉を浴びせる人とも、コミュニケーションを試みることだ。
なぜ、自分を攻撃してくる相手と対話するのか。
「私の街頭演説に立ち止まって文句を言ってくる人は、マイクを渡せば話し合える可能性が高いんです。
傍から見ればイチャモンをつけているとしか見えなくても、私に言いたいことがあるから、その場にいるわけです。
『山本太郎なんて大嫌い!』と言われることもあります。
しかし、そうした批判は貴重です。
私のどこが嫌いなのか、山本太郎の至らなさをしっかりと提示してくれる可能性があります」
山本氏を批判する人たちの中には、考え方や活動に対して反対意見があるというより、「よくわからないけど、なんかムカつく」という漠然とした理由で反対している人も多いという。
「私の何が気に食わないのか、具体的に説明できる人はそれほど多くありません。
恐らく、私に関するいろんな情報をつなぎ合わせて、その人の中で私のイメージを勝手に作り上げているのだと思います。 最初にそれを感じたのは、政治家になる前。
2011年に脱原発のための署名活動をしていたときのことです。
敵意を持って話しかけてきた人がいたので、聞いてみると、『お前、こんなことがあっただろう』と。
その内容は、ネットの噂や週刊誌報道をつなぎ合わせたフンワリしたものでした」
「アンチ」の正体は、「単なる先入観」の可能性が高い証拠だ。
「理論武装」はしても、決して論破はしない
では、自分に先入観を持つ相手に対し、山本氏はどのようにコミュニケーションを重ねるのだろうか。
「自分から説明をしっかりすることが大切だと思っています。
そのためにも、一定の理論武装は必要です」
アンチを論破するということだろうか。
「それは違います。質問に対してできるだけ丁寧にわかりやすく答えたいのです。
私は街頭でプレゼンする際には、幅広い政治テーマに対して何万枚単位の説明スライドを準備しています。
ただし、たかだか山本太郎ですから、すべてに答えられるわけではありません。
その場合は、『ご存知の方がいれば、手を挙げて教えてください』と。
『そんなことも知らないのか!』と言われても、『そうなんですよ、だからぜひ皆さんのアイデアやご意見を賜りたいんです』と答えます。
その姿勢を貫いていると、最後には力を貸してくれる方や、寄付してくれる方が現れます」
「無関心な人々」を引きつける話し方とは?
アンチは、ある意味で山本氏に興味のある人々なので、対話の余地が残されていると言える。
では、政治や山本氏の活動に対して無関心な人々に耳を傾けてもらうには、どうするのか。
「自分の得意分野で話をしても、相手が興味なければ、話を聞いてもらえません。
ですから、相手の興味関心に引きつけることが大事だと思います」
街頭演説には、年代、性別、職業、立場の異なる人たちが集まってくる。
そのため、まずは多くの人が関心を持ちそうな「ストライクゾーンの広いテーマ」から話し始めるという。
「例えば消費税がテーマなら、『朝、家を出てから、ここで山本太郎と出会うまでの間に、一度でもスーパーやコンビニで消費税を払った方はいらっしゃいますか?』と質問すると、大体8割くらいは手を挙げます。
これで、その人たちは当事者です。
私たちの主張は、『消費税廃止』です。
『消費税が10%になると、大体年収200万円の人で、1年で1カ月分の給料が消費税として取られることになります。
消費税を止めて、1カ月分の給料が手元に戻ったら、買いたかったものが買えるでしょう?
この20年のデフレで失われた日本人の個人消費が動き出すことになりませんか?』と。
その人たちの暮らしに引きつけ、自分事にしてもらうのが、この6年間の参議院議員の活動で見出した私のアプローチです」
永田町の妖怪を撃退する大人のケンカの作法
中には、対話する気のない相手もいる。
論点をはぐらかしたり、曖昧な答弁に終始する議員などだ。
そんな人にはどう対応するのか。
山本氏は、ポイントとなる「質問の仕方」を解説してくれた。
「中身のない答弁をして質疑応答の時間を削り、こちらの力を削ごうとするのが彼らのやり方です。
ですから、まともな答弁は返ってこない、という前提で質問を作ることが大切です」
意識したのは、答弁の当事者以外の人たち。
つまり私たち有権者の目だ。
「ただでさえ、国会質疑はわかりにくいイメージから敬遠されがちです。
それを避けるために、『私の質問を聞けば、議論されている内容について知らない中学生でも、問題点を理解できるわかりやすさ』を目指しました。
一般的な質疑のように、わかった者同士の会話からスタートしません。
これほどまで簡単な質問にもまともに答えない対応を見れば、有権者にも議員の不誠実さが伝わるでしょう」
「のらりくらり」かわされないためには、「予定調和にしないことも大事」だ。
「国会で質問する際、相手に事前に質問を通告する慣例があります。
通告に対して、省庁の官僚が答弁を作るわけです。
お互いに了承したうえでのやり取りですから、これは、ある意味で芝居です。
私はこの方法が嫌いなので、通告は1割するかしないか。
通告したテーマとは違う質問をすることもあります。
すると、相手は何を聞かれるかわからないので、こちらをバカにしたような態度で答弁に臨めなくなります。
相手の土俵では戦わない。
それによって、少なくとも緊張感が生まれますね」
相手をリスペクトしつつ事実で対抗する準備を
山本氏はれいわ新選組を旗揚げする前、小沢一郎氏と自由党を結党した。
自由党には、法案に対して議員の賛否を強制する党議拘束がなく、各議員が個性を発揮できる自由さがあった。
しかし、国民民主党との合同会派に合流すると、会派としての一体感が重要視され、組織の論理が山本氏の行く手を阻んだ。
「2018年、参議院での最後の年に、会派を代表して国会で質問する機会を得ました。
私はそこで、『消費税5%で野党は結束すべきだ』と主張するつもりでした。
しかし、私の代表質問に、会派から指導が入りました。
消費税減税や廃止は絶対に言ってはいけないことだと。
なぜなら、消費税を引き上げてきたのは、他でもない民主党だからです。
そのとき、組織のしがらみに初めて直面しました」
それでも山本氏は引き下がらず、結局、国会では自身の主張を述べた。
どうやって考え方の違いを乗り越えたのだろうか。
「議員歴や経験で比べれば、1期目の参議院議員である私と相手では、立場に圧倒的な違いがあります。
ですから、相手をリスペクトしつつ、相手の主張に対して事実で対抗できる準備をして話し合いに望みました。
『このやり方では、デフレを克服できない。だから、私はこうすべきだと思う』と。
そのうち、こちらを議論で打ち負かせないとわかると、『好きにしたらいい』と了解をいただきました。
こちらの理論と熱意に心が動かされたのか、面倒くさくなったのかはわかりませんが(笑)」
そんな山本氏も、議員になりりたての頃は、国会質疑で大臣に相手にもしてもらえず、悔しい思いをしたという。
「専門性の高い人に勉強不足と思われてしまうと、そこから議論を深めるには時間がかかります。
でも、『よく調べてきたな』と思わせれば、議論が平行線でも、相手を動かせる可能性はあるかもしれません」
たとえ罵倒されても相手を知る努力をしたい
理論武装しても、考え方の違いを乗り越えられないことは多い。
それでも何とか相手との一致点を見つけて共闘しようとする山本氏の最大の武器は、「相手への興味」なのかもしれない。
「例えば、街頭で私を罵倒する人は、何がその人をそうさせているのか。
もしかしたら、辛いことを抱えているのかもしれません。
その苦しみの根源は何なのかを、引き出したいのです。
あなたの苦しみは、あなた個人の問題ではなく、社会の問題かもしれない。
それを一緒に解決していきましょう、という共通の問題意識を持つことができれば、自分たちの実現したい社会を作れるかもしれません。
そのためにも、お互いの話を聞いて、落としどころを見つけていく作業をあきらめたくないのです」