広島市長「日本は核兵器禁止条約の締約国に」 75回目の原爆の日
2020年8月6日 毎日新聞【小山美砂】
広島は6日、米軍による原爆投下から75回目の「原爆の日」を迎え、広島市中区の平和記念公園で平和記念式典が開かれた。
松井一実市長は平和宣言で、新型コロナウイルスの感染拡大による自国第一主義の台頭に懸念を示し、核兵器廃絶と世界平和の実現に向け、連帯を呼びかけた。
日本政府には昨年に続き、被爆者の思いを受け止め、3年前に国連で採択されたものの未発効となっている核兵器禁止条約の「締約国」になるよう求めた。
式典は、新型コロナ対策で参列者を例年の1割に満たない約800人に限定して午前8時から開かれ、83カ国や欧州連合(EU)代表部の駐日大使らが出席した。
核保有5大国は中国を除く米露英仏が参列し、原爆が投下された午前8時15分に合わせて1分間の黙とうをささげた。
平和宣言で松井市長は、約100年前にスペイン風邪が流行したのち国家主義が台頭し、第二次大戦から原爆投下に至ったと指摘。
「自国第一主義によることなく、『連帯』して脅威に立ち向かわなければならない」と訴えた。
そのうえで「広島には核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向けて連帯することを市民社会の総意にしていく責務がある」と表明。
50年前に発効した核拡散防止条約(NPT)と、核兵器禁止条約について「この枠組みを有効に機能させるための決意を固めるべきだ」と世界の指導者に呼びかけた。
また、被爆者支援の充実に言及し、日本政府に原爆投下直後に降った「黒い雨」の援護拡大に向けた「政治判断を改めて強く求める」と述べた。
安倍晋三首相はあいさつで核兵器禁止条約と黒い雨の援護拡大には言及せず「核兵器のない世界の実現に向けた国際社会の取り組みをリードする」「高齢化が進む被爆者に寄り添い、総合的な援護施策を推進する」と述べるにとどめた。
式典では、新型コロナの影響で来日を取りやめたアントニオ・グテレス国連事務総長が「核兵器の危険を完全に排除する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することだ」と語るビデオメッセージも紹介された。
広島市の小学生から選ばれた子ども代表、市立矢野南小6年の大森駿佑さん(12)と市立安北小6年の長倉菜摘さん(12)は「人間の手によって作られた核兵器をなくすのに必要なのは、私たち人間の意思です。
私たちの未来に、核兵器は必要ありません」と訴えた。
松井市長と遺族代表は式典で、この1年間で死亡が確認された4943人の名前が記された原爆死没者名簿を原爆慰霊碑下の奉安箱に納めた。
名簿119冊に記帳された人数は全部で32万4129人となった。
被爆者健康手帳の所持者は3月末現在で過去最少の13万6682人となり、平均年齢は83・31歳に達している。