先の大戦と酷似 デマと精神論が蔓延するコロナ禍ニッポン
2020/08/08 日刊ゲンダイ
適菜収 作家
先日面白い記事を読んだ。
「婦人公論.jp」が猪瀬直樹の「昭和16年夏の敗戦」を紹介した文章だが、現在わが国で発生している状況に極めて近いと感じた。
昭和16年12月、日米開戦の8カ月前に「総力戦研究所」がつくられ、「官民各層から抜擢された有為なる青年」36人が全国から集められた。
条件として挙げられたのは、「人格高潔、智能優秀、身体強健にして将来各方面の首脳者たるべき素質を有するもの」だった。
彼らは闊達な議論を行い、あらゆるデータを集め、開戦後のシミュレーションを繰り返し、「緒戦、奇襲攻撃によって勝利するが、長期戦には耐えられず、ソ連参戦によって敗戦を迎える」との結論に達した。
見事にそれは的中する。
しかし日本は開戦に踏み切った。
なぜか?
開戦後の石油保有量を予測した数字が出たからだ。
戦争を始めたい勢力はそれに飛びついた。
たとえ「客観的」なデータであっても、解釈するのは人間である。
今回の新型コロナとの戦いにおいても愚行は繰り返された。
2020年2月16日、官邸にエリートが集められた。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議である。
安倍晋三周辺は、彼らが出した予測を無視し、妨害してきた。
国民の生命より財界の意向を重視し、専門家会議をネグって緊急事態宣言の解除を決めた。
「コロナはただの風邪」「夏には終息する」などと言いだすデマゴーグも登場したが、戦局が悪化すると、都合のいいデータを探し出してきて自己正当化を図ろうとしている。
「竹やりでB29を落とせ」というレベルの精神論も蔓延した。
しまいには市販のうがい薬の効果まで持ち出す政治家が現れた。
結局、反省しないからこういうことになるのだ。
大正12年の関東大震災では、「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」というデマが流され、朝鮮人が虐殺された。
錯綜する情報にわれわれはどう向き合えばいいのか。
まずは専門家の意見を尊重することだ。
もちろん彼らが間違えることもある。
だからといって素人の意見のほうが正しいとは言えない。
専門家の意見が割れているなら、両方の議論を追うべきだ。
一つの意見を妄信するのは危険である。
ましてや自称文芸評論家や元IT企業社長、畑違いの分野の大学教授など、外野の意見は害しかない。