2020年08月20日

「ゆがんだ正義」の正体 「普通の人」が過激化する

小だぬき→今日 父の七回忌法要を水戸の菩提寺でおこなうため ブログ訪問を休止いたします。
訪問していただいた方には 失礼をおかけしますが、お許しください。
「ゆがんだ正義」の正体 「普通の人」が過激化する
2020年8月19日 毎日新聞 ・大治朋子(専門記者)

 コロナ禍で現れた「自粛警察」、ネット上で過熱する言葉の暴力。
「自分は絶対に正しい」と思い込むと人間の凶暴性が牙をむく。
他者を激しく攻撃する人々が抱える「ゆがんだ正義」の正体とは。

イスラエルの大学院で2年余り研究生活を送り、人間の攻撃性とその過激化を探究した。
 2013年春から4年余りエルサレム特派員を務めた。
暴力を肯定する人々を取材することも少なくなかった。
彼らは実際に会うと拍子抜けするほど「普通の人」だが、自分の正当性を語り始めると「正義の顔」へとゆがみ始める。

相手はモノ以下 攻撃行動正当化
 そのギャップの意味を改めて考えたのは研究生活に入ってからだ。
通っていた大学院の博士(心理学)がこう語った。

「テロリストの頭の中を考えるにはまず普通の人々の頭の中を考える必要がある。
そうすると状況さえ整えば大半の人がテロリストにもなりうることが分かる」。
人間には攻撃性があり、それはいかようにも過激化しうるという

 私は「普通の人の過激化」に関心を抱いた。
関連の文献を読み進め、攻撃性がいくつかの段階を経ながらエスカレートしていくことに気づいた。
 例えば米インディアナ州立大のマーク・ハム教授(犯罪学)らは、米国で1940〜16年にかけて起きた単独犯によるテロ、学校銃乱射などの無差別殺傷事件123件を調査した。
それによると実行犯は過激派組織に勧誘されたわけでもなく、自分で過激化(self−radicalization)していた。

その8割は日常の苦境をきっかけに「なぜ自分はこれほど苦しまなければならないのか」と疑問を抱き、答えを探す中で被害者意識を強め過激化していたという。
 こうした事件は一神教の熱狂的信者や政治的イデオロギーに凝り固まった人々が起こすものだと私たちは思い込みがちだが、彼らはもっと日常に根ざした問題から攻撃性を激化させているという。

 また、一旦過激化プロセスに入った人に表れやすくなると指摘されるのが攻撃欲求を抱く相手を人間以下のモノと見なす非人間化の認知だ。
 米心理学会元会長の心理学者、アルバート・バンデューラ氏らが、ベトナム戦争下で起きた現地住民虐殺事件をもとに75年に提唱した概念。
無差別殺傷事件の実行犯には必ずと言ってよいほどこの意識が存在するとされる。

 他者を人間以下の愚鈍なモノと見なすことで何をしてもよい、と自分の攻撃行動を正当化し、なおかつ自尊心を高めることができるという。
 背景にあるのはストレスや不安の解消欲求で、攻撃は問題のすり替え(心理学でいう「置き換え」)に過ぎない。

 日本では近年、個人(ローンウルフ)による無差別殺傷事件が相次いでいる。
身近なレベルでは、コロナ禍に伴う自粛警察やネット上での陰湿な中傷の過激化が目につく。
レベルこそ異なるが「自分は絶対に正しい」という思い込みが生み出す凶暴性や相手の人間性、人格を無視した激しい攻撃という点で通底する。

メカニズム解明 被害防止に必要
 ジャーナリストの伊藤詩織さんは性暴力被害をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で中傷されたとして勇気を持って裁判に訴えたが、大半の人は匿名の壁などに阻まれ泣き寝入りするしかないのが現状だ。
 個人の過激化プロセスや攻撃性のメカニズムに関する研究が本格化したのはごく最近のことだ。

 70年代、心理学者らは、テロリズムや攻撃性の背景には反社会的人格障害や精神障害があり、ナルシシストやサイコパスが多いという仮説を立てた。
だが、因果関係は証明できなかった。

 次に世界の心理学者らが注目したのが社会経済的環境要因(貧困や教育など)だが、これらは誘因にはなりえても直接的な原因にはならないとの見方が有力だ。
同じ社会経済的環境にいても過激化する人としない人がいるからだ。

 大渕憲一・東北大名誉教授は、その論文「無差別テロの心理分析」で「テロ事件を起こす人は特殊な思想信条の持ち主、あるいは偏った性格・異常な心的状態にある人であるとの特異心理仮説に基づく研究が中心だった」と指摘。
しかし近年は、ローンウルフ型の犯罪の増加などを背景に「誰もが状況によっては過激主義に陥り、テロ事件に関与するようになりうるのではないかという一般心理仮説に基づく分析が主流になりつつある」と述べている。

 歴史の浅い研究分野だが、私はこの過激化プロセスと自己過激化メカニズムを探究し「歪(ゆが)んだ正義『普通の人』がなぜ過激化するのか」(毎日新聞出版)を出版した。

 「攻撃者」を訴追し裁くだけでは新たな被害を防ぐことはできない。
「ゆがんだ正義」がもたらす過激化メカニズムの解明が喫緊の課題である。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]