花谷寿人の体温計
小手先の話法
2020年9月10日 毎日新聞
「第三者話法」なるものがあるとは知らなかった。
かんぽ生命保険の不正販売問題で明らかになった営業マンの手法の一つだ。
顧客に対し、保険に入れば相続税対策になると断言はできない。
だから「他のお客様から、何も対策をしていなかったため相続税をたくさん取られたというような話を聞いた」と伝えるのだ。
「第三者」の話を仕立て、契約へ誘導する話法は会社の研修でも教えられたようだ。
なぜこんな手口が横行したのか。
責任を現場に押し付け、経営中枢にメスを入れないままでは分からない。
なのに同社は保険営業再開を決めた。
◇
日本郵政グループが設置した特別調査委員会は営業マンから聞き取りし、報告書をまとめた。
一人のコメントが目に留まった。
顧客から「あなたに任せる」という言葉を引き出す販売マニュアルには違和感がある。
良い商品と思ってもらえるものを販売したい信念があるからだ。
後で顧客が不安を感じていると分かった時は契約書類を破棄し、後日納得してもらって初めて契約する――。
契約のクーリングオフをされたことが一度もないという。
仕事への強い誇り。
こういう人たちを大事にしてはじめて、かんぽ生命は再生するのではないか。
◇
誇りを持って番組制作にあたる職員を経営陣は大事に思ったことはあるだろうか。
かんぽ問題をいち早く暴いた「クローズアップ現代+」をめぐり、郵政側からの抗議に同調したNHK経営委員会が、上田良一会長(当時)を厳重注意した問題。
番組に圧力をかけ、公共放送の公正さを脅かす行為だ。
こちらの姑息(こそく)な「話法」は何と呼べばいいのか。
NHK情報公開・個人情報保護審議委員会が、厳重注意があった会合の議事録を全面開示するよう答申した。
だが経営委は、これまでオープンにした文書に「開示」と題をつけて公表し、答申を無視し続けている。
森下俊三経営委員長のプロフィルがNHKのホームページに載っている。
好きな言葉は「行くに径(こみち)に由(よ)らず」(論語)。
裏道や小道を通らず、常に正々堂々と物事を行うという意味だ。
かんぽ生命の営業と同じ。小手先で一時をしのいだとしても、いずれ顧客(視聴者)は離れていく。
(論説委員)