2020年10月02日

インフルのワクチン接種が解禁、「子どもは後回し」に感じる大きな疑問

* 小だぬきも 1日に接種しました。
インフルのワクチン接種が解禁、「子どもは後回し」に感じる大きな疑問
2020.10.1 ダイヤモンドオンライン
久住英二ナビタスクリニック理事長、内科医師・血液専門医

10月1日はインフルエンザの予防接種の解禁日。
今シーズンの予防接種について、厚生労働省は定期接種対象の65歳以上の高齢者を優先し、それ以外の希望者には接種を待ってもらう方針を発表している。

つまり、「子どもは後回し」という格好だが、この方針は高齢者への感染リスクを考えた場合、臨床医として非常に不安と疑問を感じる。
その理由と問題点を指摘したい。
(ナビタスクリニック理事長、医師 久住英二)

進まぬ小児のインフル接種助成
さらに開始時期を遅らせる政策  
インフルエンザの予防接種シーズンが始まろうとしている。
解禁日は毎年10月1日。
ただし、今年は去年までと“ルール”が異なるようだ。遡ること1カ月、厚生労働省は定期接種対象の65歳以上の高齢者を優先し、それ以外の希望者には接種を待ってもらう方針を発表した。
メディアでも大きく報じられたので、認識されている方は多いだろう。

 その結果、日本感染症学会が「接種が強く推奨される」とした「医療関係者、高齢者、ハイリスク群(妊婦等)、小児(特に乳幼児〈生後6カ月以上〉から小学校低学年〈2年生〉)」のうち、高齢者以外は事実上、優先的な接種が保証されない状況となりつつある。

 この政策が本当に吉と出るのか。
高齢者を守るための施策が、かえって高齢者をリスクにさらすことにならないか。
毎年インフルエンザの予防接種と診療に追われてきた臨床医として不安を覚えた。

しかし問題は、インフルエンザの主たる患者となる子どもたちである。
例年、患者全体の約5割前後を0〜9歳が占める。
14歳まで含めれば、全体の7割近くに上る。
また、インフルエンザ脳症のリスクも未成年は成人に比べて高い。

 気になって、試しに東京都(島嶼部を除く)の基礎自治体について、子どもへのインフルワクチン助成とその開始時期を調べてみると、下記の図のようになった。
東京都の子供のインフルエンザ助成.jpg
とにかく白い。
実に53あるうち32市区町村は、子どものインフルエンザ予防接種に関して何の助成も行わず、予定もしていなかった。
さらに、助成はあっても3つの市で開始が10月1日より遅く、4つの区・市では対象は乳幼児のみに限られていた。
助成額は1000円から全額(無償)まで、ばらつきが大きかった。

 この状況を見る限り、子どもたちが高齢者と並んで「接種が強く推奨される」対象に挙げられていることは、ほとんど考慮されていないようだ。
65歳以上の高齢者が、インフルワクチンを定期接種として無償で、10月1日から確実に受けられるのとは処遇に差がありすぎる。

子どもへのワクチン接種が 「高齢者を救う」というエビデンス
 これだけ私が子どもたちへのインフルワクチン接種にこだわるのは、一つには先の通り彼らのかかりやすさとリスクゆえ(日本小児科医会も「小児への接種時期を一律に遅らせることは避けるべき」とする独自の声明を9月17日に発表)
だが、それだけではない。
「子どものインフルワクチン接種が、高齢者のインフルエンザ関連の死亡や入院を減少させる」という研究が、日露米などから報告されているからだ。

 日本の接種率の変化とインフルエンザ関連死亡の変化を調べた研究がある。
国内では1962〜1987年の15年間、学童のインフルエンザ予防接種は、学校で集団接種として行われていた。
その間、日本の冬季の超過死亡数は、高齢者の大幅な増加にもかかわらず減少していったという。

しかし、集団接種が中止されて以降、超過死亡数は増加し始めた。
さらに、定期接種から任意接種に切り替わった1994年からは急増した。
論文ではこうした推移から計算し、約420人の子どもへのインフルワクチン接種で、高齢者の死亡を1人減少させられるとしている。

 ロシアの研究では、モスクワの幼稚園と小中高校で実施された集団予防接種(有効性60〜68%)の結果、60歳以上の高齢者15万8451人について、インフルエンザやその合併症が有意に減少した。
 インフルエンザと見られる疾病は70%以上減少し、それに伴って合併症とされる7つの疾患も減少したという。
肺炎は62%減、気管支喘息60%減、慢性気管支炎41%減、心血管疾患71%(調整後50%)減、糖尿病57%減、胃腸疾患54%減、慢性腎盂腎炎41%減となった。

 さらに米国の研究からは、高齢者自身にワクチン接種をするよりも、子どもたちに接種した方が高齢者にとって有益である可能性が示されている。
 通常、インフルエンザの罹患率は、高齢者の加齢とともに増加する。
しかし、米ボストン・タフツ医科大学が、2002〜2006年の高齢者の入院記録約500万件と、子どもおよび高齢者のインフルエンザ予防接種率データを分析したところ、子どもの接種率上昇に伴い高齢者のインフルエンザでの入院が抑えられていた。
 ところが、高齢者自身のワクチン接種は、高齢者のインフルエンザ発症とは有意に関連していなかったという。
論文では、子どもへのインフルワクチン接種が、高齢者のインフルエンザに対する集団免疫を誘導する可能性があるとしている。

 要するに、高齢者をインフルエンザから守るためにも、子どもたちのワクチン接種を同等に優先させるべきなのだ。

「強く推奨」にもかかわらず 3週間以上待たせる厚労省
 実はこのことは、私のような“町医者”にとってみれば決して意外ではない。
米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、インフルエンザワクチンの有効率は、小児では74%に上るのに対し、高齢者は40%となっている。
この数字は診療している実感にもなじむ。
 高齢者はワクチンを打っても効きづらいのだ。

 今さら説明するまでもないが、そもそもインフルワクチン接種が「高齢者優先」と言われ始めたのは、新型コロナウイルスの流行に端を発する。
今冬はインフルエンザとの同時流行が危惧される。
両方の感染症に同時罹患する可能性がある。

日本感染症学会によれば、新型コロナ⼊院患者の4.3〜49.5%にインフルエンザとの混合感染が認められたという。
B型インフルエンザとの合併症例では重症化も報告されている。
 のみならず、同時流行は医療現場の逼迫にも追い打ちをかける。

例年と違い、今年はインフルエンザでの受診や治療薬の処方に実質的に制約が生じるかもしれない。
予防が肝心だ。
 人々が合理的に判断するならば、インフルワクチン接種希望者は例年以上に増えるだろう。
一方、ワクチンの供給量は、約3178万本(2015年の4価ワクチン導入以来最大)となる見込みだ。
1人1回接種でも日本の人口の4分の1以下しかカバーされない。
 そこで捻り出されたのが、件の高齢者優先策である。

厚労省からの「事務連絡」として、全国の自治体に対し9月11日付で正式に周知された。
 その中で、高齢者と同じく「接種が強く推奨される」はずの「乳幼児(生後6カ月以上)〜小学校低学年(2年生)の方々」は、「10月26日(月)まで接種をお待ちいただくよう」に、と明確な“呼びかけ”が行われたのである。
「事務連絡」には法的拘束力はないが、自治体では具体的に法令を運用する際の指針として機能している。

予防接種そのものは各自治体の自治事務でも、予防接種法に基づく以上、厚労省から「事務連絡」が出されれば自治体はそれに則るのが基本だ。
 また、日本医師会も、厚労省からの「事務連絡」を都道府県および群市区医師会に転送し、「関係医療機関等に対する周知」を促している。
 その結果、自治体の施策では高齢者の優遇措置ばかりが徹底され、インフルワクチン接種は「高齢者は10月1日から、それ以外は10月26日から」が何の疑問も持たれずに“標準仕様”となった。

ワクチンは追加注文できない
子どもの接種時に不足する可能性
 毎冬インフルエンザ治療の最前線に立つ身として、この解禁日に懸念を抱かざるを得ない理由が、まだあと2つある。
 東京都感染症情報センターのグラフによれば、毎年第44週、つまり11月初旬からインフルエンザ患者が出始める。
ただ、増えるのはインフルエンザだけではない。
11月には気温が下がって体調を崩しやすくなるため、普通の風邪も増加する。
インフル感染推移.jpg

 ワクチン接種希望者にしてみれば、受診した患者からウイルスをもらうリスクは少しでも避けたいだろう。
医療機関としても、待合を分け、混み合わないよう誘導し、加湿や換気など十分配慮するが、受診者が集中すれば手厚い対応は困難になる。

 10月中の感染症患者の少ない時期にインフルワクチン接種を済ませるのが、希望者にとっても医療機関にとっても合理的だ。
まして小児科など高齢者が受診しない医療機関に10月26日までただ待機させておくのは、ナンセンスでしかない。
 また、我々のクリニックのように複数の診療科(内科、小児科)でインフルエンザワクチンを扱っている場合、実質的に後回しにされた小児科分の在庫が不足する恐れもある。
ワクチンの在庫管理は科をまたがって一括して行っているためだ。

 インフルエンザワクチンの発注は、8月末に済んでいる。
卸業者は、医療機関の各ワクチンの前年度実績に基づき、それに見合う数しか売ってくれない。
高齢者が先行して接種し子どもたちに接種するワクチンがなくなっても、追加発注はできないのだ。

 相対的に効果の低い高齢者への接種が徹底され、より高い効果の期待できる子どもたちへの接種を不確かにした厚労省の“呼びかけ”。
救いは、これがあくまで“呼びかけ”であることだ。
 実際の解禁日は、各医療機関の賢明な判断にゆだねられている。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(2) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
インフルエンザ予防接種

都会病院 一人でもOKよ!

田舎病院 二人からOKよ!

↑ 理由 カプセルが「ツイン」←砂時計になっており 一人だけ使うと もう片方は廃棄処分となる為
Posted by タカやん at 2020年10月02日 17:01
インフルエンザ 無駄にはしたくないけれど 2人以上ということは 単身者は受けられなくなるのですね。
その場で 単身者を複数で組ませなくてはならない。
何かが 違う・・・。
Posted by 小だぬき at 2020年10月02日 22:37
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]