「非正規」格差で判決 是正の責務は変わらない
2020年10月15日 毎日新聞 東京朝刊
非正規従業員にボーナスや退職金を支給しなくても、不合理な待遇格差には当たらないとの判断を最高裁が示した。
大学のアルバイト職員と、駅売店の契約社員が裁判を起こしていた。
ともに2審は支給しないのは違法と判断したが、今回の判決で労働者側の逆転敗訴が確定した。
最高裁判決はいずれも、非正規従業員の仕事が正規従業員ほど複雑ではないと認定した。
配置転換がないことも理由に挙げた。
雇用の実態に、もっと目を向けるべきではないか。
4月から始まった「同一労働同一賃金」の制度の推進にも、水を差しかねない。
裁判官の1人は、契約社員の仕事内容は正社員と大きな違いがなく、退職金を支給しないのは不合理との反対意見を記した。
待遇格差の中でもボーナスや退職金は金額が大きく、非正規従業員にとって不公平感が強い。
判決は支給の目的を、人材の確保や定着を図るものと指摘した。
補足意見では、退職金は原資を積み立てる必要があり、雇用主の裁量が大きいと言及した。
企業側に軸足を置いた判断といえる。
ただし、判決は個別の状況によって、不支給が許されないケースがあり得ると明示している。
雇用側が都合良く労働条件を決めるためのお墨付きにしてはならない。
同一労働同一賃金に向けて法律が整備され、厚生労働省は運用の指針をまとめた。
その中で、ボーナスの有無は不合理な格差の対象とされたものの内容は具体的でなく、退職金については明確な記載がない。
実際の待遇改善は、労使交渉にかかってくる。
労働組合が積極的に関わっていくべきだろう。
行政の支援も不可欠だ。
非正規従業員は、労働者の4割近くを占めている。
一方で、その賃金は正規従業員の6割程度にとどまっており、厳しい立場に置かれているのは明らかである。
コロナ禍では雇用の調整弁として扱われ、解雇や雇い止めも相次いでいる。
企業は待遇改善が責務であることを深く自覚すべきだ。
働き方が多様化する中、公平な待遇は労働者だけでなく、企業の人材確保にとっても、ますます重要になる。
格差是正のための取り組みを止めてはならない。